ハーメルン。特別ドイツ通ではなくても、その名に聞き覚えがあるという人は多いのではないでしょうか。
「ブレーメンの音楽隊」ほど有名ではないにしても、ハーメルンはグリム童話にもなった「ハーメルンの笛吹き男」で知られる町。
伝説を再現した野外劇や笛吹き男ゆかりの観光スポットに加え、優雅な建物が並ぶ美しい旧市街が魅力のハーメルンに出かけてみましょう。
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笛吹き男の町・ハーメルン
ハーメルンといえば、セットで思い出されるのが「ハーメルンの笛吹き男」。
一説では「世界最古の都市伝説」ともいわれるこの伝説は、グリム童話の題材にもなり、それがきっかけでドイツ国外にも広がりました。
そんな「ハーメルンの笛吹き男」の舞台となったのが、北ドイツ・ニーダーザクセン州の都市で、メルヘン街道沿いに位置するハーメルンです。
現在のハーメルンは人口約6万人の中規模の都市。笛吹き男で有名なわりには、意外にこぢんまりした、穏やかな町です。
旧市街を彩る、「ヴェーザールネッサンス」と呼ばれるこの地方独特の華やかなルネッサンス建築や、かわいらしい木組みの家々が、訪れる人々を魅了しています。
ハーメルンへのアクセス
ハーメルンへの拠点となる大都市が、ハノーファー(ハノーヴァー)。ハノーファーからハーメルンへは、Sバーン(近郊列車)で約45分です。
ハーメルンよりも南部に位置する都市、ゲッティンゲンからは、特急とSバーンを乗りついで約1時間半。
「ハーメルンの笛吹き男」のあらすじ
1284年、ハーメルンの町に色鮮やかな衣装をまとった奇妙な男が現れました。男は報酬と引き換えに、当時人々を悩ませていたネズミを追い払うと約束。ハーメルンの市民はこれを受け入れます。
男が笛を吹き始めると、たちまち町に潜んでいたネズミが姿を現し、ネズミたちは男にヴェーザー川へと連れられ、一匹残らず溺れ死んでしまいました。
見事ネズミ退治に成功した笛吹き男ですが、ハーメルンの人々は約束通りの報酬を支払うことを拒絶。男は怒りとともに町を後にします。
後日、男は再びハーメルンの町に舞い戻り、大人たちが教会に集まっているあいだにまたもや笛を吹き始めます。男の笛の音につられて出てきたのは、4歳以上の子どもたちでした。
130人ともいわれる子どもたちが忽然と姿を消し、残ったのは、目の見えない子と、口のきけない子、上着を取りに戻った子だけ。
日本語では「笛吹き男」ですが、ドイツ語では「ネズミ捕り男」と呼ばれています。
子どもたちの集団失踪事件は実際にあった
笛吹き男のストーリーはもちろん伝説であり、事実とは異なります。しかし、ハーメルンで子どもたちが集団で姿を消すという事件は実際にありました。(ただし、単に市民のことを「○○ッ子」「子どもたち」と称した可能性もあり、実は成人だったのではないかという見方もあります)
ハーメルンで何が起こったのかに関しては、いくつかの説があり、一説では、子どもたちがいなくなったのは自然死によるもので、笛吹き男は死神を象徴しているといわれます。
最も有力とされているのが、子どもたちが自らの意思で東ヨーロッパに植民都市を建設するため、両親とともにハーメルンを捨て去ったとする説。
いずれにせよ、中世のハーメルンで起こった集団失踪事件の真相は、いまだ闇の中。その事件が当時の社会背景などと結びついて、ネズミ捕り男の伝説が生まれたのです。
ハーメルン名物・ネズミ捕り男の野外劇
ハーメルンの名物といえば、なんといっても毎年5月~9月の日曜日に開催される「ネズミ捕り男の野外劇」。
期間中の日曜日の12時から、旧市街の中心・結婚式の家の前でハーメルンの市民たちが「ハーメルンの笛吹男」の物語を再現します。(2018年は5月13日から9月16日まで)
鑑賞は無料。席は早い者勝ちなので、前列真ん中の良い席を確保するなら、上演開始一時間ほど前に行くのが無難です。
国際的に有名な「ハーメルンの笛吹男」の再現劇ながら、舞台は意外とこじんまり。出演者と観客の距離が近く、手作り感のあるアットホームな雰囲気が魅力です。
ネズミに悩まされる町の人々
野外劇は、ハーメルンの人々がネズミの害に悩まされている場面から始まります。中世の時代、ヨーロッパの町はどこも不衛生で、製粉業が盛んだったハーメルンにはネズミがあふれていたとか。
困った人々は、市長に「この状況をどうにかしてほしい」と詰め寄ります。
ネズミ捕り男が登場
そんなところに登場するのが、道化師のようなカラフルな衣装をまとったネズミ捕り男。
彼は「自分ならあっという間に町のネズミを一掃してみせる」と豪語し、ハーメルンの町の人々は、報酬と引き換えに男にネズミ退治を依頼します。
笛を吹いてあっという間にネズミを一掃
「笛を吹いてネズミを退治する」といったネズミ捕り男に対し、当初は「そんなことができるわけがない」という反応を示した町の人々。
しかし、ネズミ捕り男の笛の音に誘われ、町のあちこちに潜んでいたネズミが姿を現し、ハーメルンの町からあっという間にネズミの姿が消え去ります。
野外劇としては、ネズミが物陰から登場し、笛の音とともに踊り、町から去っていくこの場面はハイライトのひとつ。ネズミの衣装を着た子どもたちの動きがとっても可愛らしいんです。
町の人々はネズミ捕り男との約束を反故に
町からネズミが一掃されて歓喜した人々でしたが、ネズミ捕り男が笛を吹くだけでネズミを退治したのを見て、「ただ笛を吹いただけで高額の報酬を渡すわけにはいかない」と、当初の約束を反故にします。
せっかくネズミを退治したのに、約束の報酬が支払われず、感謝すらされなかったネズミ捕り男は怒りに震えます。
ネズミ捕り男が子どもたちを連れて失踪
怒ったネズミ捕り男は、後日また姿を現し、今度は大人たちが教会で礼拝をしている隙に笛の音色で子どもたちを連れ出し、どこかに消えてしまいます。子どもたちの失踪に気づいた大人たちは嘆き悲しみますが、時遅し。
目の見えない子どもは難を逃れましたが、何が起こったのかを見ることができなかったため、子どもたちの行方は杳として知れませんでした。
野外劇の後は出演者たちが行進
「ネズミ捕り男の野外劇」終了後は、劇の出演者たちが旧市街を行進します。ハーメルンの旧市街をバックに、ネズミ捕り男やネズミたちが練り歩く場面は絶好のシャッターチャンス。
ネズミ捕り男の家
続いては、ハーメルンの代表的な観光スポットをご紹介しましょう。
オースター通りに建つ「ネズミ捕り男の家」は、ハーメルンを代表するヴェーザールネッサンス建築のひとつ。1602年から1603年にかけて、市参事会員ヘルマン・アーレンズのために建てられました。
ネズミ捕り男(笛吹き男)の伝説が壁に刻まれていることから、この奇妙な名前が付いたといいます。
現在は、ハーメルン最古のレストラン「パウラーナー・イム・ラッテンクルーク」として営業中。
ソーセージやシュニッツェルといった一般的なドイツ料理のほか、豚肉を使った「ネズミのしっぽ料理」など、笛吹き男の伝説にちなんだ名物も食べられます。
舞楽禁制通り
ネズミ捕り男の家の隣を走るのが、子どもたちが連れ去られたとされる舞楽禁制通り。そのことを悼んで、現在もこの通りでは踊りを踊ったり音楽を奏でたりすることが禁止されています。
ハーメルン博物館(ライストハウス)
入口にネズミ捕り男の人形が建っているのが、ハーメルン博物館。博物館の入口がある建物は「ライストハウス」と呼ばれるヴェーザールネッサンスの建物で、もともとは1556年から1558年にかけて、豪商ゲルト・ライストのために建てられた家でした。
館内では、ハーメルンの歴史や絵画、笛吹き男の伝説に関する資料などを展示しています。
マルクト教会
ハーメルンにあるいくつかの教会のうち、旧市街の中心に位置するのがマルクト教会。ロマネスク様式とゴシック様式が融合した美しい教会で、隣に建つ結婚式の家とともに、ハーメルンを象徴する風景を形作っています。
約800年にわたって使われてきたこの教会は、第2次世界大戦の爆撃によりほぼ全壊し、1957年から1959年にかけて再建されました。
見どころは、南側にある笛吹き男のステンドグラス。現存する最古の笛吹き男の水彩画は、このステンドグラスをもとに描かれたといわれています。
付属の塔からは、ハーメルンの町並みを一望することができます。時間に余裕があれば、ぜひハーメルンのパノラマを楽しんでください。
結婚式の家
野外劇の舞台となるのが、結婚式の家のテラス。結婚式の家は、1610年から1617年にかけて、市が市民のために建設した宴会ホールをもつ建物です。この壮麗な姿を見れば、当時のハーメルンがいかに裕福だったかがわかるでしょう。
結婚式の家には仕掛け時計があり、13:05と15:35、17:35には仕掛け時計が動き、笛吹き男や子どもたちが登場します。
ネズミがあちこちに
ハーメルンの旧市街を歩くときは、ぜひ足元にもご注目を。というのも、石畳の道のあちこちに、かわいらしいネズミのプレートが設置されているからです。
これらは観光案内の役目も買っていて、「ネズミ捕り男の道」と名付けられた散策コースの目印。この道をたどると、ハーメルンの主要な観光スポットをめぐることができます。
おわりに
知名度が高いわりに「ハーメルンの笛吹き男」がどんなストーリーなのかはよく知らなかったという人も多いのではないでしょうか。
ハーメルンを旅すれば、700年以上前の事件をもとにした伝説を、今も大切な教訓として町全体で語り継いでいることが実感できます。
小さな町だからこそ、深い郷土愛が感じられるハーメルン。ぜひ、ネズミ捕り男の野外劇が開催される日に出かけてみてはいかがでしょうか。