きっと「バウムクーヘン」が食べたくなる6つのトリビア ~はじまりはドイツ人捕虜~

日本では、百貨店からスーパー、コンビニまであちこちで見かけるバウムクーヘン。

日本にバウムクーヘンを最初に紹介したのが、実は「ドイツ人捕虜」だったということをご存じでしょうか?バウムクーヘンを食べるのがもっと楽しくなる、「バウムクーヘンにまつわる6つのトリビア」をご紹介しましょう。

「バウムクーヘン」ってどういう意味?

「バウムクーヘン」とは、ドイツ語で「木(Baum)のケーキ(Kuchen)」という意味。バウムクーヘンの断面が木の年輪のように見えるからですね。

ちなみに、ドイツ語には日本語でいう「ケーキ」を指す言葉が2種類あります。それが、クーヘン(Kuchen)」と「トルテ(Torte)」。

何が違うかというと、「クーヘン」はバウムクーヘンを見てもわかる通り、装飾の少ない素朴な焼き菓子です。粉もの感がしっかりとあり、どちらかというとパンの延長のようなイメージです。

一方の「トルテ」は、生クリームや果物などでデコレーションされているものを指します。世界的にも有名な「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ」は、こちらにあたりますね。

ドイツではあまりバウムクーヘンを見かけない

日本では、デパート、スーパー、コンビニなどあらゆる場所でバウムクーヘンが売られているので、「バウムクーヘンの本場ドイツはさぞかしバウムクーヘン天国に違いない」と思っている方もいるかもしれません。

ところが、実はドイツではバウムクーヘンを見かけることはめったにありません。「コンディトライ」と呼ばれるドイツ式のパティスリーでたまに売られている程度

地域によってもバウムクーヘンとの遭遇率に差があり、北ドイツや東ドイツ(特に旧東ドイツ圏)のほうがバウムクーヘンと出会う確率が高いです。

日本人に人気のあるロマンティック街道などを旅していると、下手したら1週間の旅行でバウムクーヘンを1度見かけるか、1度も見かけないか…というくらいでしょう。地域によっては「バウムクーヘンを食べたことがない」というドイツ人も珍しくないほどです

ドイツには「バウムクーヘン」の定義がある!

なぜバウムクーヘンの本場のはずのドイツでバウムクーヘンを見かけることが少ないのか?

その答えは、ドイツにおけるバウムクーヘンの位置づけにあります。

実は、ドイツでは国立菓子協会によって「バウムクーヘンの定義」が定められているのです

ドイツで「バウムクーヘン」と認められるためには、「油脂はバターのみを使用する」「ベーキングパウダー(膨張剤)は使用しない」といった厳しい基準を満たす必要があります

しかも、バウムクーヘン作りには専用のオーブンを必要とするうえ、付きっきりで作業をしなければならないため、手間暇と高度な技術を必要とします。そのため、本場ドイツでは限られた菓子職人しかバウムクーヘンを作ることができず、ごく一部のカフェやコンディトライ(スイーツショップ)でしかバウムクーヘンを扱っていません。

ドイツのバウムクーヘンのおもな材料は、小麦粉、バター、卵、砂糖などごくシンプルなもの。これに各店がアルコールやレモン果汁、スパイスなどさまざまな隠し味を加え、オリジナルの味に仕上げます。

日本にバウムクーヘンを広めたのはドイツ人捕虜

 おそらく、世界で最もバウムクーヘンを見かけることが多いのは日本でしょう。

もっとも、日本のバウムクーヘンは独自の進化を遂げているため、ドイツの国立菓子協会が定めている「バウムクーヘン」の定義を満たしていないものが多いのですが…

いずれにせよ、ドイツから遠く離れたここ日本でなぜこれほどまでにバウムクーヘンが広まったのか、不思議に思いませんか?

その答えは、日本におけるバウムクーヘン普及の立役者「ユーハイム」にあります。老舗洋菓子メーカー「ユーハイム」の創始者カール・ユーハイムは、日本にバウムクーヘンを伝えたドイツ人

カール・ユーハイムは第1次世界大戦で日本軍の捕虜となり、広島県の物産陳列館(現在の「原爆ドーム」)にバウムクーヘンを出品したのです。当時の日本人は木の年輪をかたどった見たこともないお菓子を喜んだそうです。

自分のお菓子が受け入れられたことで、カール・ユーハイムは日本に残ることを選びます。関東大震災や第2次世界大戦の被害に遭いながらも、戦後、弟子たちによって「ユーハイム」の店は再興され、現在に至っています。

日本におけるバウムクーヘンの歴史は、「広島でドイツ人捕虜が焼いたバウムクーヘン」からはじまったのです。まさに「事実は小説より奇なり」ですね。

「バウムクーヘン」と「バームクーヘン」って何か違うの?

 ところで、バウムクーヘンの呼称には「バームクーヘン」が使われることもありますよね。

「バウムクーヘン」と「バームクーヘン」には何か違いがあるのでしょうか?

ドイツのバウムクーヘンは頑なに伝統を守り、ずっと変わらないレシピで作り続けているものが多いですが、日本人は柔らかくてふわふわした食感を好むこともあり、バウムクーヘンも日本人の好みに合わせて独自の進化を遂げてきました。味にしても、紅茶味、抹茶味、コーヒー味、いちご味、バナナ味など、ドイツでは見かけないようなものも含め、実に多彩なフレーバーがあります。

その一方で、日本のバウムクーヘンは安く大量に生産するため、ベーキングパウダー(膨張剤)やマーガリンが入っているものが多いのも事実。ベーキングパウダーやマーガリンが入っているバウムクーヘンは、ドイツの国立菓子協会が定める「バウムクーヘン」の基準を満たしていません。

「バームクーヘン」は、「バウムクーヘン」を大量生産できるよう、日本独自の発展を遂げたもの。「バームクーヘン」には定義がなく、材料も製法も自由なので、スーパーやコンビニで手軽に買えるものは厳密にいえば「バームクーヘン」の可能性が高いといえるでしょう

※本記事中では、この段落以外は「バウムクーヘン」と「バームクーヘン」を区別せず、「バウムクーヘン」で統一しています。

バウムクーヘンは「そぎ切り」が本場流

日本ではよくバウムクーヘンを上から垂直にナイフを入れて扇形にカットしますよね。でも本場ドイツでは違うんです。

ドイツで主流のバウムクーヘンのカット方法は、「そぎ切り」

そぎ切りにすると余計な圧力がかからないため、生地の目が詰まらず軽い口当たりになります。扇形に比べて、見た目も繊細でおしゃれですよね。

同じバウムクーヘンでも切り方によって食感が異なるので、次にバウムクーヘンを食べるときは、ぜひそぎ切りにトライしてみてください。

そぎ切りにするには、バウムクーヘンの断面に斜めにナイフを当て、すくうようにしてカットしましょう。難しそうに聞こえるかもしれませんが、やってみると意外と簡単。

うまく切るコツは、「よく切れるナイフを使うこと」と「小さなナイフを使うこと」の2点です。バウムクーヘン専用のナイフも存在しますが、簡単に手に入るものではないため、果物ナイフなどでも十分代用できますよ。

おわりに

バウムクーヘンにまつわる6つのトリビアをご紹介しました。

ドイツの伝統菓子がドイツ人捕虜によって日本に伝わり、本場以上に人々に愛されるようになったというのはとても興味深いストーリーでしたね。

今度バウムクーヘンを食べるときには、ぜひその歴史にも思いを馳せてみてください。

参照

・「バウムクーヘンとヒロシマ」くもん出版・巣山ひろみ著
・「バウムクーヘンの文化史」 朝日新聞デジタルSELECT