ドイツ全土に中世の面影を残す街は数あれど、実は古い街並みがまるごと界遺産に登録されている街は多くありません。
ドナウ河畔にたたずむ古都レーゲンスブルクは、そんな数少ない街のひとつ。第2次世界大戦の戦火を逃れ、古代ローマ様式、ロマネスク様式、ゴシック様式など、各時代を代表する建築物がそのままに残っている街並みは、「ドイツ中世の奇跡」と呼ばれるほどです。
旧市街がまるごと世界遺産に登録されているレーゲンスブルクは、ドナウ河畔にパステルカラーの建物が並ぶ可愛らしい街。
長い歴史をもつだけに「世界最古のソーセージ屋さん」をはじめ、「世界最古」や「ドイツ最古」も豊富。池田理代子さんの長編漫画「オルフェウスの窓」の舞台にもなったことから、漫画をきっかけにレーゲンスブルクを知ったファンの方もいるかもしれませんね。
一瞬にして中世にタイムトラベルができる、南ドイツの古都レーゲンスブルクへと出かけましょう。
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世界遺産の古都レーゲンスブルク
レーゲンスブルクは、南ドイツはバイエルン州、ドナウ河畔のほとりにたたずむ古都。旧名は「ラティスボナ」で、179年にローマ皇帝マルクス・アウレリウスによって築かれ、のちに神聖ローマ帝国皇帝による帝国都市となりました。
古くから交通の要衝として栄え、ドイツでも数少ない本物の中世の街並みが残っている場所で、「ドイツ中世の奇跡」とも称されます。
第2次世界大戦の被害が大きかったドイツでは、戦後多くの都市で中世の街並みが復元されました。ところが、奇跡的に戦火を逃れたレーゲンスブルクの街並みは復元ではなく、オリジナルのまま。中世に商人達が建てた豪華な邸宅が今もそのまま残っていて、街全体が「建物の美術館」と呼ばれているほどです。
2006年には、旧市街と対岸の地区が「レーゲンスブルクの旧市街とシュタットアムホーフ」として世界遺産に登録されました。
ドナウ川のほとりにパステルカラーの建物が並ぶ風景は、なんともロマンティック。レーゲンスブルクの旧市街が目に飛び込んできた瞬間、中世へのタイムトラベルが始まります!
レーゲンスブルクへのアクセス
バイエルン州でも比較的大きな街であるレーゲンスブルクは、アクセスも便利。
最も近い大都市がミュンヘンで、ミュンヘン中央駅(München Hbf)からレーゲンスブルク中央駅(Regensburg Hbf)までは、快速列車で約1時間30分。
フランクフルト中央駅(Frankfurt(Main)Hbf)からレーゲンスブルク中央駅(Regensburg Hbf)まではICE(高速鉄道:ドイツ版新幹線)で約3時間です。
またレーゲンスブルクからチェコの首都プラハまではバス(Flixbus)で3時間半程度なのでドイツからチェコに行く途中、あるいはチェコからドイツに行く途中に立ち寄るのもいいでしょう。
旧市街のランドマーク・大聖堂
古い街並みがまるごと世界遺産に登録されているレーゲンスブルク旧市街のランドマークが、大聖堂。
バイエルン州で最も重要なゴシック建築ともいわれ、天に向かって真っすぐに伸びる高さ105メートルの2本の尖塔はなんとも見事で貫禄たっぷり。規模は異なりますが、世界遺産のケルン大聖堂を彷彿とさせる重厚なたたずまいです。
外観はもちろんのこと、内部の見ごたえ十分。鮮やかな色合いと精緻な模様が印象的なステンドグラスは、13~14世紀に制作されたもので、吸い込まれるような美しさです。
2009年に設置された、世界最大の壁掛けパイプオルガンにも注目。重さはなんと37トンにも及び、演奏者はエレベーターで演奏台にのぼるというからスケールが違いますね。
幸運にも日曜日にレーゲンスブルクを訪れることになったら、「ドームシュパッツェン(大聖堂のスズメたち)」と呼ばれるレーゲンスブルク少年合唱団の歌声に耳を傾けてみてください。
あのウィーン少年合唱団にも引けを取らないといわれるレーゲンスブルク少年合唱団は、毎週日曜日の朝10時からのミサで天使の歌声を聞かせてくれます。
ドイツ最古の石橋
大聖堂と並んで、もうひとつ世界遺産の街レーゲンスブルクを象徴する風景が、ドナウ川に架かる石橋。全長310メートルの石橋が、16のアーチによって支えられています。
もともとこの場所には8世紀ごろから木造の橋がありましたが、たびたび壊れていたために「新たに立派な橋を造ろう」と建設されたのがこの石橋です。
1135年~1146年にかけて建設されたレーゲンスブルクの石橋は、アーチ型の石橋としてはドイツ最古。チェコの首都プラハのカレル橋をはじめ、この石橋を手本に多くの橋が建設されました。
2010年から長い間修復工事中でしたが、2018年に修復工事が完了。再び堂々たる美しい姿を見せてくれています。
ドナウ川の対岸から眺めるレーゲンスブルク旧市街の風景は、格別!2000年間変わらぬドナウの流れと、重厚な石橋、中世そのままの旧市街の街並みが一体となった景観はまさに絵画の世界です。
世界最古のソーセージ屋さん
レーゲンスブルクを代表するグルメが、ドナウ河畔にたたずむソーセージ屋さん「ヒストリッシェヴルストキュッヘ(Historische Wurstküche)」。「世界最古のソーセージ屋さん」といわれ、ドナウ川に架かる石橋を建設するための労働者向けの食堂から始まりました。
一見小さな小屋のようなお店の近くまで来ると、煙突からソーセージの香ばしい匂いが漂ってきて、一瞬にして食欲をそそられます。
ドイツには多種多様なソーセージがありますが、ここ「ヒストリッシェヴルストキュッヘ」の焼きソーセージは、細くて小ぶり。
ここのキッチンで働くごく一部のスタッフしか知らないという門外不出のレシピで作られているそうで、外はカリッ、中はジューシーで、炭火焼きの香ばしさとあいまって、一度食べるとやみつきになります。
まったくしつこさがないのに、小ぶりのソーセージには肉のうまみが凝縮されていてとってもジューシー。付け合わせのザワークラウト(キャベツの漬物)との相性も抜群で、ザワークラウトと合わせるといくらでも食べられてしまいそうです。
天気の良い日、テラス席でドナウ川を眺めながらいただくソーセージは、文字通り最高!
パステルカラーの街並み散策
こぢんまりとした街ながら、レーゲンスブルクの旧市街には、なんと960もの重要文化財があります。ピンク色のアーチ型の門などは、そこはかとなく南欧の雰囲気が感じられます。
レーゲンスブルクの魅力は、なんといっても観光地らしい華やかさと素朴な日常の雰囲気が同居していること。街全体が「中世の博物館」と呼べるほど、そこかしこに歴史の香りが漂っている一方で、人々の生活の温かみも感じられるのです。
パステルカラーの旧市街には、入り組んだ石畳の路地が広がり、ただ歩いているだけで「この先には何があるんだろう」とワクワクせずにはいられません。気持ちの赴くままに、あちこちを探検してみましょう。
街の規模のわりにカフェが多いのもレーゲンスブルクの特徴。旧市街を歩けば、路地裏に個人経営の小さなカフェが点在しているので、きっとお気に入りのスポットが見つかるはずです。
トゥルン・ウント・タクシス城
レーゲンスブルク中央駅にほど近いところにあるトゥルン・ウント・タクシス城 は、池田理代子さんの漫画「オルフェウスの窓」の舞台になった場所。
今日世界中で使われている郵便制度の元を作り上げ、郵便事業で大成功したトゥルン・ウント・タクシス家の城で、現在も侯爵一家が居住しています。
かつてはベネディクト会の修道院だった建物で、1816年から宮殿に改装されました。事務的な部屋を含めると609部屋もあり、豪華なバロック様式やロココ様式の部屋の数々やロマネスク・ゴシック様式の回廊、ネオ・ルネッサンス様式による大理石階段ホールなどが見どころ。ガイドツアーに参加することで内部の見学が可能です。
夏には中庭でコンサートが開かれたり、アドベントの時期にはクリスマスマーケットが開かれたりと、季節のイベントも開催されており、市民にも親しまれているお城です。
宮殿に併設されている聖エメラム教会も必見。もともと8世紀に修道院の付属教会としてバジリカ形式で建てられ、11世紀中頃にロマネスク様式に拡張、18世紀にはバロック様式に改修されました。
質素な外観からは想像できないほど、内部は白を基調とした華やかで幻想的な空間。時間がない方はぜひ聖エメラム教会だけでも足を運んでみてください。
ヴァルハラ神殿
レーゲンスブルク郊外に位置するユニークなスポットが、ヴァルハラ神殿。1830~1842年にかけてにギリシャのアテネにあるパルテノン神殿を模して建てられたもので、バイエルン王国の第2代国王ルートヴィッヒ1世が造らせた建物の中で、最も高価なものといわれています。
「ヴァルハラ」とは「死者のホール」を意味し、ドイツ史上に名を残す偉人たちの栄誉を称えるために造られた、いわば「偉人の殿堂」。神殿の内部にはベートーヴェンやゲーテをはじめ、多くの偉人たちの胸像がズラリと並んでいます。
ドナウ川を見下ろす高台にあり、神殿からの眺めも壮観。レーゲンスブルクからはバスで30分、船(冬季運休)で45分ほどかかりますが、ユニークな光景は一見の価値あり。レーゲンスブルクを訪れた際、時間があればぜひ足を延ばしてください。
おわりに
日本では決して知名度が高いとはいえないレーゲンスブルクですが、旧市街がまるごと世界遺産に登録されているだけあって、コンパクトな街には長い歴史とあふれんばかりの魅力が凝縮されています。
その特別感は、行けばきっとわかるはず。ミュンヘンから電車やバスに揺られ、美しい風景の数々に会いに行ってください。