ドイツきっての人気観光地、ロマンティック街道。
バイエルン州南部、ロマンティック街道の終点ももうまもなくという場所に、ひっそりとたたずむ世界遺産のヴィース教会があります。
こぢんまりとした教会ながらも、ドイツ、いえヨーロッパで最も美しい教会のひとつといえるこの教会は、まさに南ドイツの宝石。その美しい姿で、年間100万人以上の訪問者を魅了しています。
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草原にたたずむ小さな教会は世界遺産
ドイツ・ロマンティック街道の終点、フュッセン近郊。バイエルンの草原に、ぽつんとたたずむ小さな教会があります。
一見すると何の変哲もない、ドイツの田舎の素朴な教会。実は、これが巡礼地として名高い世界遺産のヴィース教会なのです。
ヴィース教会に関する予備知識が何もなく、たまたま通りかかっただけだとしたら、誰がここを有名な世界遺産の教会だと思うでしょうか。
しかしこのヴィース教会、外観は素朴ながら内部は華麗を極め、「ヨーロッパで最も美しいロココ様式の教会のひとつ」といわれています。
ヴィース教会へのアクセス
ヴィース教会へは、フュッセンから路線バスで行くのが一般的。フュッセン駅前からヴィース教会へは、73、9606、9651番のバスで約45分です。
ただしバスの本数は多くないので、事前に行き帰りのバスの時刻を調べておくのは必須。バスの運行スケジュールはドイツ鉄道のホームページで検索できます。
フュッセンからヴィース教会への便を調べる場合、出発地は”Füssen(またはFuessen)”、目的地は”Wieskirche,Steingaden”となります。
4月~10月のあいだに旅行する場合は、ロマンティック街道バスの利用も可能。ヴィース教会で15分ほどの停車時間があります。
ヴィース教会の見学時間は、夏期は8時から20時、冬期は8時から17時までです。ただし、日曜の午前などミサの時間中の見学はできないのでご注意を。
鞭打たれるキリストの伝説
ヴィース教会の正式名称は、「ヴィースの巡礼教会」。わざわざ「巡礼」と名が付くだけあって、ドイツ有数の巡礼地として、多くの訪問者を迎え入れてきました。
この草原の地が有名な巡礼地となったわけは、「ヴィースの奇跡」と呼ばれる奇跡の伝説にあります。
1730年、現在ヴィース教会がある場所に近いシュタインガーデンのプレモントレ修道院の神父2人が、「鞭打たれるキリスト」の木像を造り上げました。
ところが、キリスト像が血を流す姿があまりに悲惨だったため、人々から嫌われ、修道院の衣類部屋にしまい込まれ、その後、修道院付属の食堂の主人に引き渡されます。
1738年、農婦マリア・ロリーが屋根裏部屋に忘れ去られていたキリスト像を譲り受け、熱心に祈りを捧げ続けました。
すると、1738年6月14日に、鞭打たれるキリスト像が涙を流したというのです。
この「ヴィースの奇跡」は瞬く間に広がり、噂を聞きつけた人々がマリアの家に押し寄せます。
1740年、鞭打たれるキリスト像のために小さな礼拝堂が建てられましたが、増え続けるドイツ国内外からの巡礼者に対応しきれず、1746年にヴィース教会の建設が始まりました。
1746年に建設が始まったヴィース教会が一旦の完成を見たのは、1754年のこと。内装工事などすべてが完了したのはさらにその3年後のことでした。
ドイツ・ロココの最高傑作
「ドイツ・ロココの最高傑作」といわれるヴィース教会の設計を手がけたのは、ドイツ・ロココの完成者として名高いドミニクス・ツィンマーマン。
ツィンマーマンは、その完成後も自らの最高傑作であるヴィース教会から離れようとせず、教会の近くに自ら家を建て、残りの生涯をそこで過ごしました。
クリーム色の簡素な外観の教会内部に足を踏み入れると、その印象は一変します。
優美な天井画と華麗なるスタッコ装飾、精巧な彫刻の数々に彩られた内部は、息を吞むほどの美しさ。
柱や壁の下部の装飾は控えめに、上部にいけばいくほど豪華さを増す空間は、この教会が地上界と天上界を結びつける存在であることを暗示しているかのようです。
たっぷりと自然光を採り入れるように設計された教会内部は、色と光が織り成すまばゆいばかりの美の結晶。「ドイツ・ロココの最高傑作」と称されるヴィース教会は、ドミニクス・ツィンマーマンの生涯の集大成でもあるのです。
天から降ってきた宝石
壮麗なヴィース教会内部で、特に目を奪われるのがパステルカラーのフレスコ画とスタッコ装飾で彩られた天井。類まれなる美しさをもつこの天井は、「天から降ってきた宝石」とも称えられるほどです。
中心にスポットライトが当たっているかのような光の効果、繊細かつ華やかな色使いはいつまでも見ていたくなるほどの美しさです。
フレスコ天井画とスタッコ装飾は、ドミニクス・ツィンマーマンの兄である、ヨハン・パプティスト・ツィンマーマンの手によるもの。
大天井画の中心には、復活したキリストが描かれており、その周囲を天使たちや使徒たちが取り囲んでいます。
中央祭壇の上部には、最後の審判のための玉座が、オルガンの上部には永遠の門が描かれ、すでに始まりつつある永遠の時を暗示しています。
ヴィース教会独自の装飾に注目
無数の美しい装飾が施され、目移りせずにはいられないヴィース教会ですが、天井付近に見逃してはならない独自の装飾があります。
それが、最後の審判のための玉座の左側に表現されている天使。この天使、上部はフレスコ画ですが、左脚はスタッコ装飾なのです。
絵画とスタッコを織り交ぜた手法は珍しく、ヨハン・パプティスト・ツィンマーマンの遊び心を感じさせます。
鞭打たれるキリスト像が祀られた中央祭壇
ヴィース教会の起源となった、鞭打たれるキリスト像。
過去には粗末に扱われたこともあったこの像は、今ではヴィース教会の中央祭壇に大切に安置されています。
鞭打たれるキリスト像の周囲には、キリストの血を表す赤い柱と、神の愛と恵みを表す青い柱が並び、預言者や福音書記者たちがキリスト像を取り巻いています。
祭壇付近に散りばめられた彫刻の精巧さと立体感は目を見張るばかり。傷つき、血を流す生々しいキリスト像と、豪華で優美な周囲の装飾とのコントラストがどこか幻想的です。
おわりに
こぢんまりとした空間に、時代を代表する建築家と芸術家が魂を注いで完成したヴィース教会。
「感動」という月並みな言葉をあえて使いたくなるほど、純粋な美しさにただただ心を動かされます。