ベルリン近郊の都市ポツダムは、東ドイツ屈指の観光地。
18世紀、プロイセン王国を強国へと導いたフリードリヒ大王がこの町に宮殿を造営したことで、優雅な宮廷文化が花開きました。
有名なサンスーシ宮殿のみならず、ポツダムには世界遺産に登録されている宮殿や庭園が目白押し。大王の夢が詰まった華やかな古都、ポツダムを旅してみましょう。
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世界遺産の町ポツダム
東ドイツ、ベルリンから南西へ約30キロのところに位置する古都ポツダム。華麗なる王の宮殿があることから、「北のヴェルサイユ」とも称されてきました。
ポツダムは多くの湖と森に囲まれた自然豊かな都市で、もともとはやや田舎っぽい印象のある町でしたが、18世紀にプロイセン王フリードリヒ大王が宮殿の建設を命じたことで一変。歴代のプロイセン王が建てた数多くの宮殿が点在する、ドイツ有数の宮廷都市となりました。
現在は、首都ベルリンから日帰りできることも手伝って、東ドイツ有数の観光地となっています。
世界遺産「ポツダムとベルリンの宮殿群と公園群」
ポツダムの宮殿群は、1990年に「ポツダムとベルリンの宮殿群と公園群」として世界遺産に登録されました。
ポツダムの世界遺産といえば、真っ先にサンスーシ宮殿を思い浮かべる人は少なくないことでしょう。しかし「宮殿群と公園群」という世界遺産の登録名称からもわかる通り、ポツダムにある複数の宮殿と庭園が、ベルリンの宮殿や庭園とあわせて、まとめて世界遺産に登録されているのです。
ポツダムの世界遺産地区は、大きく分けて3つのエリアに分けられます。
ひとつは、町の西側に位置するサンスーシ庭園。直線のメインストリートだけでも2.5キロにおよぶ広大な庭園で、ポツダムの代名詞であるサンスーシ宮殿をはじめ、新宮殿や絵画館など、大小の個性豊かな宮殿群が点在しています。
次に、町の北に位置する新庭園。ここには、ポツダム会談の舞台となったツェツィリエンホーフ宮殿や、大理石宮殿が建っています。そして3つ目が、町の東に位置するバーベルスベルクで、バーベルスベルク宮殿などの見どころがあります。
共通券「sanssouci+」がお得
ポツダム観光はサンスーシ宮殿だけ見て終わりという人も少なくありませんが、どうしても時間が取れない場合を除いて、それじゃあもったいない。
ポツダムには主要なものだけでも10以上の宮殿が点在しており、サンスーシ宮殿以外にも見どころがたくさんあります。
しかも、ポツダムにある主要な宮殿はすべて一日共通券「sanssouci+」(19ユーロ)で入場可能。サンスーシ宮殿の入場料だけでも12ユーロかかるので、複数の宮殿を観光するなら共通券が断然お得です。時間があるなら、共通券を使って丸一日たっぷりとポツダムの宮殿観光を楽しんではいかがでしょうか。
サンスーシ宮殿
ポツダムを訪れるなら、まずは絶対に見逃していけないのが、サンスーシ宮殿。
プロイセン王フリードリヒ大王(フリードリヒ2世)が夏の居城として1745~1747年にかけて建造したロココ様式の宮殿で、「サンスーシ」はフランス語で「憂いなし」を意味します。
テーマは「人生の喜びと自然との一体感」。階段状のブドウ畑とクリームイエローの優雅な宮殿が織り成す風景は、まさにこのテーマを象徴しているといえるでしょう。
宮殿内部には、ブドウをはじめ、植物や動物をモチーフにした装飾が随所に施されており、豪華ながらも温かみのある雰囲気が漂います。
楽器を演奏するためのコンサート室は、自然がさまざまな形で表現された「フリードリッヒ風ロココ」の代表例。自らもフルートの名手として知られていたフリードリヒ大王は、ここでフルートを演奏したり、コンサートを聴いたりしたそうです。
2000冊を所蔵する図書室や、美術品を展示するために造られたギャラリーなどもあり、サンスーシ宮殿を訪れると、王がいかに自然と芸術、学問を愛していたのかがわかります。
ポツダムを代表する宮殿だけに、夏の観光シーズンともなれば2~3時間待ちとなることもあるほどの人気ぶり。効率的に観光するためには、事前のオンライン予約がおすすめです。
絵画館
サンスーシ宮殿に隣接する、プロイセン王室の絵画コレクションを展示する絵画館。建築家ヨハン・ゴットフリート・ビューリングによって1755~1763年にかけて建造された建物で、現存する独立した美術館としては、ドイツ最古といわれています。
広大な広間に、ヨーロッパ絵画がずらりと並ぶ光景は壮観。なかでもイタリアとフランドル地方の作品が充実しており、ピーテル・パウル・ルーベンスやアントニス・ファン・ダイクの名品もあります。
希少な黄色の大理石の床や、大理石の彫像、黄金色の天井装飾などで飾られた建物自体も豪華で美しく、絵画に興味のない人も一見の価値ありです。
新迎賓館
サンスーシ宮殿を挟んで絵画館の反対側に位置するのが、フリードリヒ大王の命により1747年に建設された新迎賓館。当初はオレンジ栽培のためのオランジェリーとして使用されていましたが、1771~1775年にかけて改装が行われ、宴会広間や寝室を有する来客のための宿泊所となりました。
サンスーシ宮殿同様、内部は自然からインスピレーションを受けたロココ様式の装飾で飾られています。とりわけ、古代の胸像や女神たちを描いた天井画で彩られた中央広間の優雅なたたずまいは必見。
中国茶館
ポツダムにある宮殿のなかでもひときわユニークな姿をしているのが、サンスーシ庭園内の「鹿の庭園」に建つ中国茶館。その名の通り、18世紀ヨーロッパの王侯貴族のあいだで流行した中国趣味を取り入れたエキゾチックなティーハウスです。
フリードリヒ大王の自身の構想に基づき、ヨハン・ゴットフリート・ビューリングの指揮により、1757年に完成。小さな館ながら、黄金色に輝くロココ様式の像で飾られた外観は、ポツダムにある宮殿のなかでもひときわ派手でよく目立ちます。
内部も中国の風景を描いた天井画や、中国の磁器などで飾られた華やかな空間で、当時のヨーロッパ人が想像する中国を体現しています。
オランジェリー宮殿
オレンジをはじめ、熱帯産の植物を栽培するために造られたのがオランジェリー宮殿。1851~1860年にかけて建てられた宮殿で、2つの塔をもつ中央館は、ローマにある別荘ヴィラ・メディチをモデルにしています。
サンスーシ宮殿がフランス風なら、オランジェリー宮殿はイタリア風。同じサンスーシ庭園地区にありながら、まったく異なる建築様式に出会えるのが、ポツダム宮殿観光の醍醐味のひとつです。
内部は随時開催されるガイドツアーで見学でき、19世紀のイタリア絵画の複製が飾られた「ラファエルの間」など、色とりどりの部屋の数々に出会えます。
新宮殿
サンスーシ宮殿に次ぐポツダム観光のハイライトのひとつが、サンスーシ宮殿から見て、サンスーシ庭園の最奥に位置する新宮殿。
フリードリヒ大王が1763~1769年にかけて建造した豪華なバロック様式の宮殿で、色鮮やかなピンク色の外壁と、ブルーのドームとのコントラストが目を引きます。
大王が「18世紀最大の城を」と命じて完成した通り、建物の幅は220メートル、部屋数は200以上という壮大なスケールの宮殿で、プロイセン王国の力を誇示する役割を果たしました。
なかでも有名なのが、貝殻やサンゴ、鉱石を使った装飾が見事な「洞窟の間」。ただ豪華なだけでなく、どこかミステリアスな雰囲気漂う、一度見ると忘れられない空間です。
ツェツィリエンホーフ宮殿
ポツダムの北に位置する新庭園内にある宮殿で、もともとは最後のドイツ皇太子ヴィルヘルム・フォン・プロイセンとその家族の居城として建てられたもの。1945年には、あのポツダム会談の舞台になったことで知られています。
55本の煙突や木骨組みが印象的なこの宮殿は、1917年の完成。イギリスのチューダー様式を採り入れた建造物は、宮殿というよりは邸宅や別荘といった趣です。
第二次世界大戦下、1945年7月17日~8月2日にかけては、ここでポツダム会談が開催され、アメリカ、イギリス、ソ連の3国によって戦後処理についての話し合いがもたれました。
現在ツェツィリエンホーフ宮殿は博物館として公開されており、会談開催当時のままに保存されている議場などを見ることができます。
オランダ街
ポツダムの見どころは宮殿だけと思われがちですが、町歩きが楽しめるスポットもあります。そのひとつが、かつての町の中心であったアルター・マルクト広場と新庭園のあいだに位置するオランダ街。
オランダ文化を愛し、オランダの経済や建築を手本にしようと考えたプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム1世は、オランダから職人を誘致しようと18世紀にこの地区を整備しました。ところが、結局期待したほど多くのオランダ人は来てくれなかったのです。
けれども、オランダ風の街並みはそのまま残り、現在も130以上のオランダ風の赤レンガ造りの建物が並んでいます。
おしゃれなカフェやレストラン、雑貨ショップが点在し、町並みを眺めながら歩くだけでも楽しいオランダ街。ドイツでしばしのオランダ気分を味わってみてはいかがでしょうか。
おわりに
サンスーシ宮殿の知名度が先行し、意外とほかの観光スポットはあまり知られていないポツダム。
今回ご紹介した見どころは、朝早くから観光すればなんとか一日で周ることができますが、ポツダムにはほかにもバーベルスベルクや大理石宮殿など、見ごたえのある宮殿があります。
一つひとつの観光スポットをじっくり見たい、あるいはもっとたくさんの観光スポットを周りたいという場合には、ポツダムに宿泊して2日以上かけて観光するのがおすすめ。
ポツダムを訪れると、サンスーシ宮殿だけじゃないこの町の見どころの多さに驚くはずです。