進撃の巨人と隕石の町、ドイツ・ネルトリンゲンの8つの魅力

ドイツの観光地のなかでも常にトップクラスの人気を誇る、ロマンティック街道。

中世の美しい町々が連なるロマンティック街道沿いに、「進撃の巨人」のモデルではないかと噂される町があるのをご存じでしょうか。

「進撃の巨人」の世界を彷彿とさせるネルトリンゲンは、同時に隕石の町でもあり、猫の町でもあり、豚伝説の町でもあります

知れば知るほど面白い、逸話でいっぱいのネルトリンゲンの魅力に迫りましょう。

「進撃の巨人」のモデルと噂に

ドイツのロマンティック街道沿いに位置する町、ネルトリンゲン。町の起源は古く、紀元前後にはすでに古代ローマ人の集落がありました。

898年には、カロリング朝の王領”Nerdilinga”として文献に登場。11~12世紀には最初の城壁が造られ始めます。ただし、この頃に建設された城壁は現在よりも範囲が狭く、14世紀以降の町の拡大に伴って城壁の大拡張工事が行われ、現在の姿になりました。

旧市街をぐるりと取り囲む城壁は1327年に建設されたもので、5つの門や10以上の塔もほとんど当時のまま

中世の美しい要塞都市の姿をほとんど完全に残すネルトリンゲンは、アニメ・映画化もされた大人気漫画「進撃の巨人」のモデルではないかと噂になり、にわかに注目を集めるようになりました

「進撃の巨人」では、城壁の高さは50メートルですが、ネルトリンゲンの町を囲む城壁の実際の高さは5~10メートル。

もちろん、「進撃の巨人」に登場する町並みとそっくりそのまま同じというわけではありませんが、オレンジの切妻屋根が印象的な中世の城塞都市は、確かに「進撃の巨人」の世界を彷彿とさせます。

隕石の町、ネルトリンゲン

©Stadt Nördlingen

ネルトリンゲンは、およそ1500万年前に隕石が落下してできたリース盆地に築かれた町偶然にも、旧市街の直径はリース盆地に落下した隕石の大きさとだいたい同じで、城壁に囲まれた旧市街は見事な円形をしています

1500万年前というと、途方もなく昔のように感じられますが、地球の歴史から見れば比較的最近の出来事。リース盆地は、これまでにわかっている限り、世界で2番目に見つかったクレーターです。(現在世界でクレーターと判明しているものは200弱)

隕石によってできた跡がこれほどはっきりと残っているのは世界的にも珍しく、月面着陸を果たしたアポロ14号の飛行士たちもフィールドトレーニングに訪れたとか。

「進撃の巨人」のモデルと噂されるネルトリンゲンは、町の成り立ちからしてまるでファンタジー。神秘的な円形の町は、物語の舞台にうってつけといえるでしょう。

ネルトリンゲンへのアクセス

小さな町ながらネルトリンゲンには鉄道が通っており、ドナウヴェルトからRB(普通列車)で約30分。路線バスを利用するならディンケルスビュールからおよそ50分。

ただし鉄道、路線バスともに便利とは言い難く、4~10月に訪れるならロマンティック街道バスの利用がおすすめです。

比較的アクセスしやすい大都市は、ミュンヘン。ミュンヘン~ネルトリンゲンまでは鉄道でおよそ2時間のため、ミュンヘンからの日帰り旅行も可能です。

町のシンボル、聖ゲオルク教会

ネルトリンゲンのシンボルが、町の中心・マルクト広場に面して威風堂々とした姿を見せる聖ゲオルク教会

1427年に建設がはじまった後期ゴシック様式の教会で、外壁には「スエバイト」と呼ばれる隕石落下の影響でできた石が使われています。この石のなかにはダイヤモンドが含まれているそうですが、取り出すのが難しいうえ破片が細かいため、商業化にはいたっていないのだそう。

聖ゲオルク教会は、もともとカトリックの教会として建てられましたが、のちにプロテスタントの教会へと変わりました。建物全体としては後期ゴシック様式ですが、内部装飾のいくつかはバロック様式で造られています。

聖ゲオルク教会には高さ89.9メートルの塔があり、「ダニエル」の愛称で親しまれています。塔へは階段でのぼることができ、頂上からはオレンジ屋根が連なるネルトリンゲンの旧市街が一望できます。

高いところから見ると、この町がきれいな円形をしていることが実感できますよ。

町のアイドル、猫職員「ヴェンデルシュタイン」

ネルトリンゲンのアイドルが、市の正式な猫職員「ヴェンデルシュタイン」

子猫のころにやってきて、そのまま塔に居つくようになったという彼女は、聖ゲオルク教会の塔「ダニエル」に勤務しています。

ヴェンデルシュタインの任務は、糞害のもととなる、塔に近づいてくる鳥を追い払うこと

塔を訪れる観光客のおもてなしも行っていて、一日に3~5回、塔を上り下りして観光客の案内役を務めるといいます。彼女の「仕事」に対する報酬は、キャットフードの現物支給。

ドイツで三毛猫は幸運をもたらすとされることもあって、ヴェンデルシュタインは「ラッキーキャット」と呼ばれみんなの人気者です。

進撃の巨人の町、ネルトリンゲンのキュートな「猫職員」に会いに行く

ドイツでここだけの城壁

ネルトリンゲンは、町の周囲を城壁に囲まれた城塞都市。ローテンブルクやディンケルスビュールなど、ドイツのロマンティック街道にはほかにも中世の城塞都市がありますが、ネルトリンゲンの城壁にはここにしかない特徴があります。

それは、旧市街を囲む城壁の上を歩いてぐるりと一周できること。ドイツに中世の町は数あれど、ここまで完全な形で城壁が残っているのは珍しく、町を囲む城壁の上を歩いて一周できるのはネルトリンゲンだけなのです。

ネルトリンゲンの城壁は、全長2.7キロ。ぐるっと一周するのは少々骨が折れますが、ぜひ一部分だけでも城壁の上を歩いてみてください。

ひっそりとした城壁の上を歩いているうちに、自分が物語の登場人物にでもなった気になれるかもしれません。

城壁と古民家が一体化した風景

ネルトリンゲンの城壁沿いには、城壁と古民家が一体化したフォトジェニックなエリアがあります。小さいながらもよく手入れされた家々はとっても可愛らしく、こうした物件はカップルなどに人気が高いのだとか。

このように城壁に取り込まれているかのような家は「Kasarme」と呼ばれ、そのうちの一軒はカフェ「Kasarm」として営業しています。(「e」を落として「Kasarm」とするのは、この地域の方言)

「みんながくつろげる空間を造りたい」との思いから生まれたこのカフェは、地元の人々に人気の憩いの場。ドリンクや自家製のケーキはもちろんのこと、朝食や軽いランチもいただけます。

ここでのおすすめスイーツが、リース地方のローカルケーキ「Rieser Bauerntorte」。リンゴを使った素朴な味わいのケーキは、飽きのこない優しいおいしさです。

カフェ「Kasarm」周辺は、特に雰囲気のある一帯。カフェには入らなかったとしても、ここを目指して歩けば素敵な風景が楽しめます。

「Cafe Kasarm」
An der Reimlinger Mauer 23, 86720 Nördlingen
http://www.cafe-kasarm.de/

ネルトリンゲンの「豚」伝説

ネルトリンゲンの町を歩くと、あちこちにカラフルな豚のオブジェがあることに気付くはず。いったい、なぜ豚・・・?

これには、ネルトリンゲンの町を救ったというとある伝説が関係しています。

1440年、敵がネルトリンゲンの町を夜襲しようとしていたところ、一匹の豚が城門の外へと逃走を図りました。それに気づいた豚の持ち主の女性が”So G’sell so!”と叫んで周囲の住民を起こし、ネルトリンゲンは結果的に敵の攻撃を免れたのです。

こんな言い伝えから、豚はネルトリンゲンのマスコットに。こうした豚のオブジェは、ネルトリンゲン市内に300以上もあるといい、町の人々は白い豚の像を購入して、自由にペイントできるのだそうです。

ジュエリーショップの店先にたたずむ豚のオブジェには、宝石がペイントされているなど、豚のデザインはさまざま。個性あふれる豚たちを見比べながら歩くと、ネルトリンゲン観光がよりいっそう楽しくなります。

リースクレーター博物館

ネルトリンゲンは、隕石の落下でできたリース盆地に築かれた町。それにちなんで、ネルトリンゲンにはドイツ内外から大勢の研究者や地学者の卵たちが訪れる「リースクレーター博物館」があります。

リース盆地が隕石落下でできたクレーターであることが判明したのは、1960年代。それまでは、クレーターといえば月にあるもので、リース盆地は火山の噴火によるものと考えられていたそうです。

リースクレーター博物館の6部屋にわたる展示室では、隕石衝突からクレーター発生にいたるプロセスが詳細に解説されているほか、世界各地で見つかった隕石の破片や、NASAとのつながりから月の石までも展示

ここで伝えようとしているのは、隕石の衝突は単にすべてを破壊する悲劇ではなく、地球の新陳代謝を促し、生物多様性に一役買っているということ。事実、隕石が落下してできたリース盆地は農耕に適した肥沃な土壌をもつことから、ここに町ができ文化が発展しました。

まさしく「大地は語る」。リースクレーター博物館で宇宙の神秘に触れれば、地学に興味がある人はもちろん、そうでない人も地学の面白さを垣間見ることができるでしょう。

市立博物館

ネルトリンゲンが歩んできた波乱万丈の歴史に触れられるのが、市立博物館

1867年開館のバイエルン州で最も古い博物館のひとつで、聖ゲオルク教会の改装に合わせて、教会にあった宗教美術品などのコレクションからスタートしました。

現在の場所に移転したのは1960年代のことで、この建物はもともと中世に設立された病院でした。

館内には、ネルトリンゲンの近郊にある洞窟から見つかった紀元前6000年ごろの頭蓋骨や古代ローマの笛吹き像をはじめ、町の長い歴史を物語る展示品にはじまり、ネルトリンゲンが人口の約半分を失った三十年戦争の解説や、かつては聖ゲオルク教会にあった宗教美術品など、多岐にわたる展示が見られます。

なかでも貴重なのが、もともと聖ゲオルク教会の祭壇画として描かれたものをはじめとする、フリードリヒ・ヘルリンによる絵画の数々。ルターの友人であったルーカス・クラナッハによって描かれた、ルターの小さな肖像画も必見です、

コウノトリの巣

マルクト広場に面した歴史的建造物「タンツ・ハウス(舞踏館)」の屋根にはコウノトリが巣を作っており、ネルトリンゲン名物のひとつになっています。

ネルトリンゲンはコウノトリを町ぐるみで見守っていて、ネルトリンゲン市のホームページでは、ウェブカメラでコウノトリの様子がチェックできるようになっているほど。

ネルトリンゲンのおすすめ土産

ネルトリンゲンらしいお土産調達におすすめのお店が、ホテルに併設されたコンディトライ(スイーツショップ)&カフェ「Altreuter」

ここでは、城壁に見立てたチョコレートや、”So G’sell so”の文字が書かれた豚をかたどったクッキーなど、ネルトリンゲンならではのオリジナルスイーツが手に入ります。

加えて、市庁舎の向かいにある観光案内所では、ポストカードや豚のぬいぐるみ、マグカップなど、ネルトリンゲンのオリジナルグッズが購入できます。

「Hotel-Cafe-Konditorei Altreuter」
住所:Marktplatz 11, 86720 Nördlingen
http://www.hotel-altreuter.de/

おわりに

「進撃の巨人」のモデルではないかと注目されるようになったネルトリンゲンですが、隕石あり、猫職員あり、豚伝説ありと、可愛い動物やユニークな逸話でいっぱいの町。

ロマンティック街道を旅するなら、ぜひネルトリンゲンのファンタジックな風景と歴史にじっくりと触れてみてください。