ドイツ南西部、バーデン=ヴュルテンベルク州に広がる黒い森地方。日本人観光客が多いエリアではありませんが、この地方には個性豊かな街々が点在しています。
そのひとつが、フライブルク。「キリスト教世界で最も美しい塔」をもつ大聖堂のお膝元へとご案内しましょう。
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黒い森地方の都市フライブルク
フライブルク(フライブルク・イム・ブライスガウ)は、ドイツ南西部に広がる黒い森地方の南の玄関口。
日本での知名度はあまり高くありませんが、ドイツ国内での人気はひじょうに高く、ほかの地方の人々はこぞって「フライブルクは美しい街だ」「住みやすいところだ」と褒めたたえます。
フライブルクは、1805年まで500年もの長きにわたってハプスブルク家の支配下にあったこともあってか、街のつくりがどことなく優雅。ドイツでは最も日照時間の長いエリアに位置することから、どこか南欧的な開放感にもふれられます。
フライブルクは、旧市街への車の乗り入れが規制されている「グリーンシティ(環境都市)」として国際的にも有名で、日本からも多くの人々が視察や学習に訪れています。
ドイツとしては比較的大きな街でありながら、街の周囲は豊かな緑に囲まれており、便利な都市生活と自然とのふれあいが両立できることから、多くのドイツ人の憧れを集めているのです。
フライブルクへのアクセス
フライブルクは、ドイツの主要都市のひとつであり、高速鉄道ICEも停車するため交通アクセスは便利。フランクフルト中央駅からフライブルク中央駅までICEで2時間強、ミュンヘン中央駅からフライブルク中央駅まではICEで4時間強です。
フランスとスイスへの国境にも近いため、フランスやスイスとあわせて周るのもおすすめ。フランスのストラスブールやスイスのバーゼルからフライブルクへは、鉄道に加えて、格安バスの「Flixbus」も利用できます。
フライブルク中央駅から旧市街の中心部までは、徒歩で10分程度。旧市街はじゅうぶん徒歩で周ることができます。
「キリスト教世界で最も美しい塔」をもつ大聖堂
フライブルク観光のハイライトともいえるのが、「キリスト教世界で最も美しい塔」といわれる塔をもつ大聖堂(ミュンスター)。旧市街の中心部に位置するフライブルクのシンボルで、ドイツでも指折りの大聖堂として知られています。
ツァーリンゲン大公ベルトルド5世の命で1200年に着工され、300年もの歳月をかけて1513年に完成しました。
当初は後期ロマネスク様式で建設が始められましたが、フランスのストラスブールにある大聖堂に憧れ、途中からゴシック様式に転換。スイスのバーゼルにある大聖堂や、ストラスブールの大聖堂の影響を受け、ロマネスクとゴシックが混じり合った様式で建てられています。
ヨーロッパの大聖堂は、左右対称の二本の塔をもつものも多いですが、フライブルクの大聖堂は、高さ116メートルの尖塔が一本。精巧な彫刻が施され、天に向かって誇り高くまっすぐに伸びるこの塔は、「キリスト教世界で最も美しい塔」と称えられています。
日本ではあまり有名ではありませんが、ドイツ国内はもとより、この大聖堂をひと目見ようと、フランスやイタリアなどからフライブルクを訪れる観光客も多いんですよ。
見る角度によってさまざまな表情を見せてくれる大聖堂は、内部も貴重な宗教美術の宝庫。
ステンドグラスを通して入り込む陽の光が印象的で、信者でなくとも自然と厳かな気持ちに。ステンドグラスのなかには13世紀当時から残っているものがあるほか、プレッツェルが描かれたドイツらしいデザインのものもあります。
大聖堂広場で開かれる朝市
大聖堂周辺には大聖堂広場(ミュンスター広場)が広がっており、日曜を除く朝からお昼すぎにかけて、活気ある市場が開催されます。
売られているのは、野菜や果物に加え、花、お茶、木工製品、ミツロウ製品などさまざま。地元で人気のチーズケーキのワゴンが出ることもあります。野菜や果物は、朝一番に近郊の農家から運ばれてくるので鮮度も抜群。
ソーセージなどドイツ風ファストフードの屋台も出ているので、晴れた日にはホットドッグやカリーヴルストなどを買って広場で食べるのもおすすめです。
アウグスティーナ博物館
フライブルクで最も有名な博物館が、アウグスティーナ博物館。1278年に初めて記録に登場した中世のアウグスティノ会修道院の建物を改装した博物館で、黄色の外壁は遠くからでもよく目を引きます。
18世紀の初めに教会が増築され、バロック様式に改装されましたが、1810年には世俗化され、1923年にアウグスティーナ博物館が会館しました。
ライン川上流域の芸術品のコレクションで知られ、ルーカス・クラーナハやグリューネヴァルトの絵画など、中世からバロック期にかけての美術品が充実。
さらには、フライブルク大聖堂から移されたオリジナルの彫刻品やステンドグラス、さらには黒い森地方の時計や民族衣装にいたるまで、フライブルク市の多彩なコレクションが展示されています。
道路を走る水路のナゾ
フライブルクの旧市街を歩いていると、石畳の道の端に水が流れている溝があることに気づくはずです。ドイツ全土でも珍しいこのような水路は「ベッヒレ」と呼ばれ、 もともと工場や消火用の水供給、排水溝などとして使われていたそう。
ここを流れているのは黒い森(シュヴァルツヴァルト)からの清流で、夏にフライブルクを訪れると、子どもたちが足を浸してはしゃいでいる光景を目にするかもしれません。
地元では、「この水路に足をとられた人は、フライブルガー(フライブルク市民)と結婚することになる」というジンクスがあります。あなたは試してみる勇気がありますか?
道路に施されたモザイク模様
フライブルクを散策していると、石畳の道路に施されたモザイク模様にも目が留まるはずです。これは、その前にあるお店が何を扱っているのかを表したもの。
一部現在のお店とは内容がずれているものもありますが、靴屋さんの前には靴、ジュエリーショップの前にはダイヤの模様が見つかり、お店とモザイク模様を見比べているだけでも楽しめます。
ちなみに、愛媛県の松山市、イランのイスファハーンなど、フライブルクと姉妹都市の提携を結んでいる街の紋章もありますよ。
運河に面した路地散策
フライブルクの真の魅力は、路地を散策してこそわかるもの。大通りだけを歩いているとなかなかわかりませんが、フライブルクにはゲヴェルべ運河に沿った心安らぐ散策路があります。
それが、フィッシェラウ(Fischerau)通り周辺。ゲルベラウ(Gerberau)通りに「アルトシュタットカフェ(Altstadt Cafe)」というカフェがありますが、その背後は運河になっているのです。
大通りから運河沿いの散策路に入れば、がらっと雰囲気が変わります。
運河沿いには、手作りアクセサリーのショップやギャラリー、文房具店、日本のインテリア雑貨のお店、小規模なミュージアムなど、個性あふれるショップや施設が点在。穏やかな水辺の空気に包まれながら歩くだけでも楽しいエリアです。
優雅で広々としたカフェ「グマイナー」
街歩きに疲れたら、カフェで休憩といきましょう。おそらくフライブルクで最も優雅なカフェがドイツのグルメ雑誌「DER FEINSCHMECKER」でベストカフェに選ばれたこともある「グマイナー(Gmeiner)」。
ドイツの黒い森地方で1898年に創業された老舗コンディトライ(スイーツショップ)で、ドイツ菓子をベースに、ヨーロッパ各国の味を採り入れた繊細なスイーツが自慢。シュトゥットガルトやバーデン・バーデンのほか、日本橋の高島屋にも店舗があります。
フライブルク店の1階は物販とイートインスペース、2階はシックな雰囲気が感じられるゆったりとしたカフェスペースになっています。
目移りしてしまうほどさまざまなケーキがあるグマイナーですが、やはりここでは黒い森名物の「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(黒い森のサクランボ酒ケーキ)」がおすすめ。
黒い森地方ならあちこちのカフェやベーカリーに置いてあるケーキですが、グマイナーのシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、クリームがひときわ上品。キルシュヴァッサー(サクランボの蒸留酒)も香り高く、高級コンディトライとしての誇りを感じさせる特別感たっぷりの味わいです。
1階ではクッキーやチョコレートなども販売しているので、お土産の購入にもおすすめです。
「グマイナー(Gmeiner- Die Frische Konditorei & Confiserie)」
住所:Kaiser-Joseph-Str. 243, 79098 Freiburg im Breisgau
公式サイト:https://www.chocolatier.de/kh_freiburg.php
ケーキが絶品のカジュアルカフェ「コルベンカフェアカデミー」
高級感漂うグマイナーとは対照的に、いつでも気安く立ち寄れるカジュアルなカフェが「コルベンカフェアカデミー(Kolben Kaffee Akademie)」。ケーキがおいしいと評判で、フライブルクっ子に大人気のカフェです。
お店はマルティン門のすぐ近く。目立たない外観ですが、ひっきりなしにお客さんが出入りしています。店内のイートインスペースは狭く、ゆっくり時間を過ごすのにはあまり向いていませんが、ここのケーキは一度試してみる価値あり。
特にムース系のケーキがおすすめで、パッションフルーツとチョコレートのムースケーキなど、日本では珍しい組み合わせのものもあります。
「コルベンカフェアカデミー(Kolben Kaffee Akademie)」
住所:Kaiser-Joseph-Straße 233, 79098 Freiburg im Breisgau
公式サイト:https://www.kolbenkaffee-freiburg.de/
おわりに
カラフルな歴史的建造物が並ぶフライブルクの旧市街は、典型的な南ドイツの風景。その一方で、大聖堂や旧市街を守っていた塔など、フランスやスイスの建築物の特徴を感じさせる建造物も見られます。
フライブルクは、大聖堂以外に派手な見どころがある街ではありませんが、街並み全体が美しく、南ドイツの人々のあたたかな暮らしぶりが感じられるのが魅力。
その心地良い雰囲気に身をまかせて、暮らすように滞在してみたくなる街なのです。