古城と黒い森と湖の絶景。新しいドイツに会えるファンタスティック街道の魅力

ドイツの観光街道といえば、なんといってもノイシュヴァンシュタイン城やローテンブルクに代表されるロマンティック街道が有名。

しかし、ドイツには150以上もの観光街道が存在し、多種多様なドイツの楽しみ方を提案しています。

なかでも、ドイツのイメージを象徴する風景が詰まった観光街道が、南西ドイツを走るファンタスティック街道。

古城や旧市街、自然の風景が紡ぐ絶景の数々に出会えるこの街道には、知られざるドイツの魅力がたっぷりとつまっています。

南西ドイツ・ファンタスティック街道

ドイツの主要観光街道のひとつとして知られるファンタスティック街道。

ドイツ南西部、バーデンヴュルテンベルク州を走る観光街道で、北はヴァインハイムから、南はコンスタンツにいたるまで続く、全長約350キロのルートです

ファンタスティック街道沿いには、文化人も愛した美しい中世の町やドイツを代表する名城、さらには黒い森やボーデン湖といった人気のリゾート地までがラインナップ

豊かな自然と歴史の両方が楽しめる、メルヘンチックなドイツのイメージを象徴するような風景がたっぷりと詰まっています。

日本ではさほど知名度が高いとはいえないファンタスティック街道ですが、実はドイツ人のあいだでは最も人気の高い国内旅行先のひとつなのです

ドイツ最古の大学町・ハイデルベルク

ファンタスティック街道の北のハイライトとなるのが、ドイツ最古の大学町・ハイデルベルク。エーベルバッハやニュルンベルクを経て、チェコのプラハへと続く古城街道の街としても知られています。

しっとりとした情緒あふれる町並みは、ゲーテやショパンをはじめ多くの文化人や芸術家をも魅了してきました。

ハイデルベルクのシンボルが、ドイツ三大名城のひとつに数えられるハイデルベルク城。街を見下ろす丘の上に建つ城は、13世紀ごろからプファルツ家の居城として使われ、度重なる拡張の結果、ゴシックやルネッサンス、バロックなどさまざまな建築様式が混在する城となりました。

現在はなかば廃墟のようになっていますが、それがまたほかの城にはない深い味わいを感じさせます。

1386年創設、ドイツ最古を誇るハイデルベルク大学では、風紀を乱す学生を収容した「学生牢」や「アルテ・アウラ(大講堂旧館)」が見学可。当時の学生にとって学生牢に入れられることは一種の「勲章」であり、学生牢の壁には彼らが書いた名前やシルエットなどが残っています。

ハイデルベルクにやってきたら見逃してはならないのが、ゲーテも思索にふけったというハイキングコース、「哲学者の道」からの眺め

ハイデルベルク城と旧市街、周囲の自然が織り成す風景は文句なしの絶景。自然と歴史・文化が調和した、ドイツを代表する風景です。

「森の国ドイツ」を象徴する黒い森

ファンタスティック街道は、「森の国ドイツ」を象徴する黒い森地方を通ります

「黒い森(シュヴァルツヴァルト)」は、バーデン=ヴュルテンベルク州のバーデン地方に広がる山地で、北はバーデン・バーデン、東はシュトゥットガルト、南はフランスとの国境近くまで広がる広大な森林地帯。

自然愛好家が多いドイツでは、ハイキングスポットとして高い人気を誇っています

南北200km、東西は40~80kmという広大な黒い森地方には、メルヘンチックな木組みの町並みや、日本のかやぶき屋根の家を彷彿とさせる、この地方特有の伝統的な家並みも点在。

建築のみならず、伝統衣装や祭りなどの風習、食文化にも独特のものがあり、ドイツのほかの地域と比べても一風変わった文化に触れられるエリアです

自動車ファンの聖地・シュトゥットガルト

ドイツ南西部の中心都市で、バーデン・ヴュルテンベルク州の州都として知られるのが、シュトゥットガルト

ベンツやポルシェが本社を構え、「メルセデス・ベンツ博物館」や「ポルシェ・ミュージアム」といったドイツを代表する自動車博物館があるこの街は、まさに自動車ファンの聖地です。

冬にシュトゥットガルトを訪れるなら、クリスマスマーケットも見逃せません。毎年アドベントの時期に開催されるシュトゥットガルトのクリスマスマーケットは、世界最大級のクリスマスマーケットとして有名

屋台の美しさを競うコンテストが開かれるため、ドイツに数あるクリスマスマーケットのなかでも、屋台の装飾が豪華で凝っていると評判です。

市内中心部に点在するクリスマーケット会場をつなぐ道路上にも華やかな屋台がずらりと並び、街全体がクリスマスムードに包まれる光景は圧巻。

近郊には、ドイツ最大のバロック宮殿で「シュヴァーベン地方のヴェルサイユ」とも称されるルートヴィヒスブルク城や、世界遺産のマウルブロン修道院、木組みの町並みが美しい中世の町・エスリンゲンなど多彩な見どころが集まっており、シュトゥットガルトを拠点に近隣へと足を延ばすのもおすすめです

テュービンゲン

ハイデルベルクと並んでドイツの4大大学町に数えられるのが、テュービンゲン。人口の4割を学生や大学関係者が占め、数多くの詩人や哲学者、科学者などが青春を過ごした町として知られています。

その一人が文豪ヘルマン・ヘッセで、若き日のヘッセが働いていた「ヘッケンハウアー書店」は今も変わらずに営業を続けています

パステルカラーの家々が並ぶネッカー河畔や、石畳の小路や坂道が入り組んだ旧市街は中世の面影を色濃く残す一方、若者が集まる大学町だけあって、親しみやすく開放的なムードが漂うテュービンゲンの町。

その美しい町並みや独特の空気感から、ドイツ人が「住みたい町」として常に上位にその名が挙がります

ネッカー川の川中島をまっすぐに走る並木道「プラタナスの小路」は、詩人や哲学者たちにも愛された道。500年以上にわたって学問と文化の町として発展してきた町の空気を感じながら、のんびりと散策を楽しみましょう。

ドイツの天空の城・ホーエンツォレルン城

南ドイツを代表する絶景のひとつが、シュヴァーベンの森の中、標高855メートルのケーゲル山の頂にそびえるホーエンツォレルン城

「孤高の城」という表現がぴったりなこの城は、「ドイツ三大名城」「ドイツ三大美城」「天空の城」など、数々の異名をほしいままにし、日本でも「ラピュタの世界を思わせる」と話題になりました

ホーエンツォレルン城は、神聖ローマ帝国の選帝侯やプロイセン王、ドイツ皇帝を輩出したホーエンツォレルン家の故郷の城で、現在もドイツ最後の皇帝ヴィルヘルム2世の子孫が所有しています。

その歴史は11世紀にさかのぼり、現在見られる城は、1867年にフリードリヒ・ヴィルヘルム4世によって再建されたもの。城内はガイドツアーで見学でき、高い天井の装飾が素晴らしい大広間や、プロイセン王家の財宝を展示する宝物館は必見です

晴れた日には城からの眺望も素晴らしく、きっとドイツ観光のハイライトのひとつになることでしょう。

ドイツ屈指のリゾート地・ボーデン湖

ドイツとスイス、オーストリアの国境をなすボーデン湖は、ヨーロッパでは有名なリゾート地

周辺に中世の面影を残す可愛らしい町が点在していることや、ドイツにしては温暖な気候のなか、のんびりと自然とのふれあいを楽しめることから多くの旅行者を惹きつけています。

536平方キロメートルもの面積をもつという広大な湖の風景は、一見湖というよりも海のよう。実際に、海のない南ドイツで、ボーデン湖は「南ドイツの海」と呼ばれてきました。

オレンジ屋根の家々や中世の教会といった人工物と自然が織り成す風景は、絵画の世界さながら。地中海地方のような開放感もあり、知らなかったドイツの魅力が発見できるエリアです。

ロマンティックな湖畔の町・メーアスブルク

ボーデン湖周辺で必ず訪れたい町のひとつが、古城とワインで知られるメーアスブルク

人口5700人ほどのごく小さな町ですが見どころは多く、湖に面した斜面に張り付くように建つ家々と、中世の古城、湖が織り成す風景は息を吞むほどの美しさです。

メーアスブルクの町には新旧2つの城があり、最古の部分を7世紀にさかのぼる旧城は、現在も人が暮らす城としてはドイツ最古のもの。堅固な城壁に、塗装が剥がれかけたレンガの壁や深い井戸・・・当時の雰囲気をとどめる城内は中世の騎士物語の世界そのものです。

メーアスブルクを訪れたら、名産のワインも忘れてはなりません。生産量の少ないメーアスブルクのワインは、ほかの地域ではなかなか飲めない希少なもの。天気の良い日、メーアスブルクのレストランやワインバーのテラス席で、ワインを楽しむひとときは最高です。

また、新城の隣に建つ州立ワイナリーでは、お土産用のワインを手ごろな価格で購入することもできます。

花の島・マイナウ島

ボーデン湖に浮かぶ「花の島」として知られるのが、マイナウ島。日本での知名度は高いとはいえませんが、毎年100万人もの観光客が訪れる一大観光地です。

中世の時代には、500年にわたってドイツ騎士団の所有となっていましたが、19世紀なかばにバーデン公フリードリヒ1世がマイナウ島を購入。そのひ孫にあたるレンナルト・ベルナドッテ伯爵が庭を拡張し、一年中花の絶えない楽園を完成させました。

45ヘクタールの面積をもつマイナウ島には、クロッカスやチューリップ、ダリアやバラ、アジサイなど、季節によって色とりどりの花が咲き乱れます

花で造られた巨大なクジャクのオブジェや、9000本以上のバラが咲くローズガーデン、1000羽もの蝶が舞うドイツ最大の放蝶温室などが見どころで、1732年に建てられた美しいバロック宮殿も見逃せません

ヤギなどの動物とふれあえるコーナーもあり、花や自然が好きな人なら一日中いても飽きないかもしれません。

ドイツ屈指のリゾート、ボーデン湖に浮かぶ花の楽園「マイナウ島」

ボーデン湖畔の歴史都市・コンスタンツ

コンスタンツは、ボーデン湖畔最大のリゾートシティ。鉄道も通っているため、ドイツにおけるボーデン湖周辺の観光スポットへの起点ともなる街です

4世紀にローマ帝国皇帝コンスタンス・クローレによって築かれたとされ、その名をとって「コンスタンツ」と名づけられました。

コンスタンツと聞けば、コンスタンツ公会議を思い浮かべる人も少なくないかもしれません。1414~1418年にかけて、統一ローマ教皇を選び、ヤン・フスの異端審議を行った宗教会議が開催されました

第二次世界大戦の戦火を逃れたため、コンスタンツは今も11~12世紀までさかのぼる美しい街並みが保存されています。旧市街には、宗教改革者ヤン・フスに有罪判決が下された大聖堂や、宗教会議の舞台になった和議の館など、コンスタンツ公会議ゆかりの場所も。

港の突堤では、いまやコンスタンツのシンボルとなった妖艶なインぺリア像がクルクルと回転しています

このインぺリア像は、コンスタンツ公会議開催時の高級娼婦をモデルにしているといわれ、片手に教皇、もう片方の手には皇帝を載せ、男性を手玉に取る女性を表しています。

ちなみに、コンスタンツ旧市街の中心部からスイスとの国境までは、徒歩約10分。「ちょっとそこまで」という感覚で隣国に行けてしまうのは、さすが国境の街ですね。

ドイツ屈指の美食エリア

フランスと国境を接する南西ドイツは、ドイツきっての美食の地として有名。ミシュランの星付きレストランも多く、独自に発展を遂げた郷土料理が楽しめます

世界遺産のマウルブロン修道院で生まれたとされ、「ドイツ風餃子」とも呼ばれる「マウルタッシェン」、チーズたっぷりのドイツ風パスタ「ケーゼシュペッツレ」など、肉とソーセージのイメージを覆すドイツ料理に出会えるでしょう。

料理のお供には、ぜひビールだけでなくワインも試してみてください。バーデン=ヴュルテンベルク州はワインの名産地で、なかでもバーデン地方ではドイツとしては少数の赤ワインの生産がさかんなことで知られています。

デザートには世界的に有名なシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(黒い森のサクランボ酒ケーキ)をどうぞ

生クリームたっぷりで一見とても甘そうですが、甘さ控えめのなめらかなクリームと、ほろ苦いキルシュヴァッサー(黒い森名物のサクランボの蒸留酒)から作られるシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、香り高い大人の味です。

見た目に躊躇していたにもかかわらず、一度食べるとハマってしまう日本人も多いんですよ。

おわりに

南西ドイツのファンタスティック街道は、日本人にとってはややマイナーな都市も少なくありませんが、人工物と自然が織り成す絶景の数々に出会えるエリア。

どこかのんびりした牧歌的な雰囲気をもつこのルートで、ドイツの新しい魅力を発見してみてください。