全国各地に美しい旧市街が残るドイツには、日本で知られている町のほかにも、魅力ある小さな町々がたくさんあります。
その美しさから「北ドイツの真珠」と称されるのが、ドイツ木組みの家街道沿いの町、ツェレ。絵本の世界に迷い込んだかのような、メルヘンチックな木組みの町並みに会いにいきましょう。
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北ドイツの真珠・ツェレ
石畳の道にカラフルな木組みの家々が並ぶ美しい町並みから、「北ドイツの真珠」と称えられるのが、ドイツ北部・ニーダーザクセン州の小さな町、ツェレ。
各地に美しい木組みの家々が点在するドイツのなかでも、とりわけ美しい木組みの町並みを残していることで知られ、ドイツを南北に縦断する全長約3000キロの観光街道「ドイツ木組みの家街道」沿いに位置しています。
ツェレが初めて文献に登場したのは993年のことで、当時は”Kellu”と呼ばれていました。ツェレは現在でも「大公の町」として知られ、一時はリューネブルク侯領の首都になったこともありました。
今となってはのんびりとした小さな地方都市ですが、壮麗な建造物が並ぶ旧市街は、絵のような美しさです。
ツェレへのアクセス
ツェレへの起点となる大都市が、ハノーファー(ハノーヴァー)。ハノーファーからツェレまでは、普通列車またはSバーン(近郊列車)で所要約25~45分です。
ハンブルクからは、IC(都市間特急)で約1時間。ツェレの鉄道駅から旧市街までは、徒歩でおよそ15分です。
絵本の世界を思わせる木組みの町並み
ツェレの見どころは、なんといっても旧市街に残るカラフルな木組みの家々。
ツェレは第2次世界大戦の被害を受けなかったため、古い町並みがよく保存されており、16~18世紀に建てられた伝統的な木組みの家々が500軒近く並んでいます。
石畳の道の両側に、メルヘンチックな木組みの家々が軒を連ねる光景を見れば、まるで絵本の世界に迷い込んだかのような気分に。ただ歩くだけで心躍る町なのです。
ドイツの木組みの家といえば、ロマンティック街道の町ローテンブルクに代表されるような、パステルカラーの淡い色合いの建物が思い浮かぶかもしれませんが、ツェレの風景はひと味もふた味も違っています。
ツェレの木組みの建物の特徴が、茶色に近い暗めのオレンジや深いグリーンといった、落ち着いた色合い。茶色やネイビー、赤といった、はっきりとした色味の骨組みも印象的です。
彫刻が多用された豊かなデザインも見どころで、この地域では、日輪や広葉樹の枝を模した装飾や、銘文など、さまざまな彫刻で飾られた豪華な木組みの家々に出会えます。
パステルカラーの可愛らしい木組みの建物もいいですが、ツェレの落ち着いた優雅な木組みの町並みにもまた違った魅力が。親しみやすさと気高さをあわせもつツェレの風景には、思わず引き込まれてしまうような不思議な力があります。
ツェレで最も美しい家「ホッペナーハウス」
「ツェレで最も美しい木組みの家」の呼び声高いのが、ポスト通りとルンデ通りの角に建つ「ホッペナーハウス」。
1532年に建造された、切妻壁をもつ7階建ての堂々たる建物で、レンガと深い緑色の木枠の組み合わせが目を引きます。
さらに木枠の部分には、神話上の生き物や人物を表現した色鮮やかな彫刻が施されており、その細工の細やかさは目を見張るほど。3階部分には、ブラウンシュヴァイク=リューネブルク公、エルンスト1世の肖像画が飾られています。
ツェレの多くの木組みの建物同様、上階に行くほど少しずつ外に張り出していく造りになっているのは、かつては1階の面積に応じて税金が課されたからだとか。
ツェレで最も古い家
ツェレの旧市街で最も古い家として知られるのが、ハイリゲンクロイツ通り26番地に建つ大きな緑色の家。
1526年に建てられた木組みの家で、その古さから傾いているのがわかります。ホッペナーハウス同様、こちらも上に行くほど外に張り出していく構造。
現在は、ドイツで人気のカジュアルファッションブランド「トムテイラー」の店舗として使われています。歴史ある建物が、町の人々が日常的に利用するお店として使われている。こうした日常感もツェレの魅力のひとつなのです。
市庁舎とマリエン教会
ツェレの旧市街の中心をなすのが、市庁舎とマリエン教会。
ヴェーザールネッサンス様式の切妻屋根をもつ白い市庁舎は、木組みの建物が並ぶツェレの旧市街にあって異色の存在です。もともと14世紀ごろにゴシック様式で建造され、16世紀末に現在のルネッサンス様式の建物に改築されました。
地下にはレストラン「ラーツケラー(「市庁舎の地下室」の意味)」があり、この地方の郷土料理が味わえます。
市庁舎の隣に建つのが、市の教会であるマリエン教会。1308年、ゴシック様式で建てられましたが、17世紀に現在のようなバロック様式の教会に改築されました。
高さ74.5メートルの塔の上からは、ツェレの旧市街を一望できます。
大公の宮殿だった城
ツェレで最も重要な建物とされるのが、かつてはツェレ大公の宮殿だった城。
もともとは13世紀に建てられた建物で、1530年にルネッサンス様式に改築。さらに17世紀後半に増築がなされ、現在見られるようなバロック様式の宮殿になりました。
後からルネッサンスの姿に戻そうと工事が始まったものの、途中で終わってしまったため、城の塔は正面向かって右がルネッサンス、左がバロックと、様式が異なっているのがご愛嬌。
城内には、ドイツで最も古いといわれるバロック様式の劇場と宮廷博物館があり、内部はガイドツアーで見学できます。城の周囲に広がる緑豊かな公園は、市民の憩いの場。
ツェレ美術館
「世界初の24時間オープン美術館」として知られるのが、ツェレ美術館。ただし、夜は館内に入ることはできず、外からライトアップされたアートを鑑賞するのみ。
「それで24時間オープンといえるのか」という指摘ももっともですが、歴史的なツェレの旧市街で20世紀の絵画やグラフィック、光のアートなどを展示するモダンなツェレ美術館がユニークな名所であることは間違いありません。
ツェレのおすすめ土産
ツェレのお土産探しにおすすめのお店が、老舗食材店「HUTH`S Kaffee & Feinkost」。1851年にお茶や香辛料、コーヒー豆などを扱う食料雑貨店としてオープンし、ハノーファー王室にも商品を納めていたという歴史があります。
なかでも自家焙煎のコーヒー豆が有名で、ドイツのグルメ雑誌でも取り上げられるほどの実力。ヨーロッパの古い薬局を思わせるクラシカルな店内に多種多様なコーヒー豆が並ぶ光景は、なんともフォトジェニックです。
ほかにも、お茶やハチミツ、手作りチョコレートなど、さまざまな食品が勢揃い。ツェレの風景をデザインしたパッケージに入ったチョコレートも手に入ります。
「HUTH`S Kaffee & Feinkost」
住所:Großer Plan 7, 29221 Celle
公式サイト:http://www.huthskaffee.de/shop/shop,home
おわりに
絵本から飛び出してきたかのような風景が広がるツェレですが、外国人旅行者の姿は意外にも多くありません。
ドイツでも有数の美しい木組みの町並みが残っていながら、日常的な雰囲気のなかでのんびりと滞在できるツェレは、北ドイツの穴場の観光地のひとつといえるでしょう。