日本ではあまり知られていませんが、北ドイツには2つの世界遺産の教会を有する町があります。それが、中世都市として栄えたヒルデスハイム。
ヒルデスハイムが誇る2つの世界遺産の教会は、ともにドイツの初期ロマネスク建築の傑作として、のちの時代の建築に大きな影響を与えました。
旧市街では美しい木組みの町並みも楽しめる、世界遺産の町に出かけてみましょう。
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中世都市として栄えた町、ヒルデスハイム
ヒルデスハイムは、北ドイツ・ニーダーザクセン州の都市。中世都市として発展した1000年以上の歴史をもつ町で、815年には司教座が置かれ、1367年にはハンザ同盟にも加わりました。
第2次世界大戦では多くの歴史的建造物が空爆で破壊されましたが、戦後その多くが再建され、旧市街には、豪華な木組みの家々が並ぶ中世の町並みも再現されています。
ハノーファーとゲッティンゲンを結ぶニーダーザクセン州の交通の要衝に位置するため、現在も活気あふれる明るい雰囲気の町です。
ヒルデスハイムへのアクセス
ヒルデスハイムへのアクセスは、ハノーファー(ハノーヴァー)を起点にするのが便利。ハノーファー中央駅からヒルデスハイム中央駅までは、Sバーン(近郊列車)または私鉄のERXで25~30分です。
ヒルデスハイム中央駅から旧市街の中心部までは、徒歩で10~15分ほど。ヒルデスハイム中央駅にはコインロッカーもあり、立ち寄り観光にも便利です。
世界遺産・聖マリア大聖堂
ヒルデスハイム最大の見どころが、世界遺産に登録されている聖マリア大聖堂。ドイツはもちろんのこと、ヨーロッパでも最も歴史のある大聖堂のひとつです。
872年にはすでにこの場所に聖堂が建っていたといわれ、1061年に現在見られるような3廊バシリカ式の初期ロマネスク様式の大聖堂が完成。その後も14世紀まで拡張が繰り返されました。
残念ながら、当時の建物は第2次世界大戦の空襲で破壊され、今日見られるのは戦後再建されたもの。美しい内装の多くは失われてしまったままです。
きりりとした直線が多用された、重厚感あふれる外観が目を引く聖マリア大聖堂。2つの後陣をもつ対称形の構造は、古ザクセン時代のオットー朝ロマネスク様式の特徴です。
大聖堂内部は非常にシンプルですが、中世の円形シャンデリアとしては最大といわれる直径6メートルのシャンデリアや、キリストの生涯のさまざまな場面が描かれた「キリストの円柱」など、中世の貴重な芸術品を見ることができます。
聖マリア大聖堂の隣には大聖堂博物館があり、11~18世紀の金銀製品や宝飾品を含む、豪華な宗教美術の数々を展示。なかでも11~12世紀の工芸のコレクションは、ヨーロッパでも有数の質を誇っています。
1000年間生き続ける伝説のバラ
聖マリア大聖堂の名物となっているのが、1000年以上あいだ生き続けているといわれる伝説のバラ。大聖堂の内部から中庭に出ると、大聖堂の後陣に野生種のバラが生い茂っているのを見ることができます。
このバラをめぐっては、次のような伝説が語り継がれています。
9世紀の始め、カール大帝の息子ルートヴィヒ敬虔王は、狩りの帰りに礼拝をしようと聖遺物容器を持って出かけます。ところが、その容器を森に忘れてきてしまいます。
急いで探しに戻ったところ、聖遺物容器がバラの茂みに引っかかっているのを発見。しかし、どうしてもその容器を取ることができず、それを神の啓示だと受け取ったルートヴィヒ敬虔王は、その場所に聖母マリアに捧げる礼拝堂を建てることにしたのです。
それが現在の聖マリア大聖堂。それから実に1100年以上たった今もこのバラは生き続けています。1945年の空襲で一旦は焼けてしまったものの、根の部分はまだ生きており、8週間後に再び新しい芽をつけたというから驚きです。
このバラはヒルデスハイムの繁栄を象徴しているとされ、このバラが生き続ける限りヒルデスハイムも繁栄するといわれているとか。
こうした背景から、バラの花はヒルデスハイムのシンボルとなっており、初夏には町のあちこちで色とりどりのバラを目にすることができます。
ヒルデスハイム中心部の路上には、おもな観光名所の方角を示すバラが描かれたプレートが設けられているのにもご注目。
世界遺産・聖ミヒャエリス教会
ヒルデスハイムが誇るもうひとつの世界遺産が、聖ミヒャエリス教会。1010年に建設が始まったロマネスク様式の教会で、「ドイツで最も美しい初期ロマネスク様式の教会」と称えられています。
着工当時のヒルデスハイムの司教ベルンバルトが大天使ミカエルに傾倒していたため、その名をつけて「聖ミヒャエリス教会」となりました。(「ミカエル」はドイツ語では「ミヒャエル」)
第2次世界大戦の空爆で破壊されましたが、1950年から再建が始まり、1957年にはもとの威容を取り戻しました。
最古のドイツロマネスク建築のひとつに数えられるというだけに、そのスタイルは独特。無骨な四角と柔らかい円を組み合わせた独特のシルエットが印象的です。
何本もの塔をもつこの複雑なバシリカ建築は、「天国の城」とも呼ばれているとか。
教会内部で目に飛び込んでくるのが、イエス・キリストの系統樹を表す13世紀の天井の板絵。1300枚のオーク板に描かれた壮大なる作品で、第2次世界大戦中は取り外されていたために戦災を免れました。
13世紀に描かれたこれほど大きな絵画が残っているのは珍しく、そのことが世界遺産登録の一因になったことは間違いありません。教会内部は荘厳というよりも、素朴で親しみやすい雰囲気です。
旧市街の中心・マルクト広場
ヒルデスハイムの旧市街の中心が、マルクト広場。第2次世界大戦で大きな被害を受けましたが、戦後見事なまでに美しい木組みの町並みが再現されました。
なかでも目を奪われる建物が、驚くほど精緻で色鮮やかな彫刻が施されたファサードをもつ「ヴェデキントの家」。現在は銀行として使われている大きな木像建築で、隣に建つ「テンペルハウス」はかつての貴族の館。現在は観光案内所として使われています。
ヒルデスハイムの観光案内所では、バラのジャムやチョコレートなど、ヒルデスハイムのオリジナル土産も手に入りますよ。
おわりに
第2次世界大戦で、町の主要建造物の多くが破壊されるという甚大な被害を受けながらも、中世の貴重な建築をよみがえらせたヒルデスハイム。
歴史の重みをかみしめながら、一歩一歩を大切に歩きたいものです。