南西ドイツ、バーデン=ヴュルテンベルク州のネッカー河畔に位置するハイデルベルクは、ドイツ最古の大学町。
古城街道を代表する観光地としても知られ、「ドイツ三大名城」のひとつ、ハイデルベルク城を擁する詩的な景観は、ゲーテやショパン、ヘルダーリンといった、数多の文化人にも愛されてきました。
歴史ある古城の街ならではのノスタルジーと、学生町ならではの活気。両者が絶妙に混じり合った古都ハイデルベルクは、独特の風景と景観で世界中の旅行者を惹きつけてやみません。
Contents
ハイデルベルクへのアクセス
南西ドイツの主要都市のひとつだけに、交通は便利なハイデルベルク。
フランクフルト中央駅(Frankfurt(Main)Hbf)からハイデルベルク中央駅(Heidelberg Hbf)までは、IC(都市間特急)で約50分。シュトゥットガルト中央駅(Stuttgart Hbf)からハイデルベルク中央駅へは、IC(都市間特急)で約40分。ミュンヘン中央駅(München Hbf)からハイデルベルク中央駅までは、ICE(ドイツ版新幹線)とSバーン(近郊列車)またはRE(快速)を乗り継いでおよそ3時間半です。
ハイデルベルク中央駅から旧市街までは1.5kmほど離れているため、バスの利用が便利。32、33、34番バスに乗車すれば、10分ほどで旧市街の入口にあたるビスマルク広場に行くことができます。
ドイツ三大名城・ハイデルベルク
ハイデルベルクの象徴が、「ドイツ三大名城」にも数えられるハイデルベルク城。
ハイデルベルク旧市街を見下ろす高台に建つこの城は、13世紀初めにプファルツ選帝侯の居城として造られて以来、増改築が繰り返されたため、ゴシック、ルネッサンス、バロックといった複数の建築様式が入り混じった姿となりました。
歴史上、破壊や修復が繰り返されてきたハイデルベルク城ですが、三十年戦争などでフランス軍による破壊を受け、十分な修復が行われないまま18世紀には稲妻が落ち、なかば廃墟のような姿となっています。
まさに「栄枯盛衰」を感じさせるハイデルベルク城のたたずまいは、ノイシュヴァンシュタイン城に代表されるようなきらびやかな城とはまったく異なる味わいがあります。
なかば朽ちたハイデルベルク城は、訪れる私たちに静かに何かを語りかけてくるかのよう。ハイデルベルク旧市街のノスタルジックな風景とあいまって、独特の景観と雰囲気に魅了され、すっかりファンになってしまう人も少なくありません。
なかば廃墟のような城独特の迫力もさることながら、テラスからの風景も必見。ハイデルベルク城のバルコニーからは、ネッカー川と豊かな緑に抱かれた詩情あふれる旧市街の景色が堪能できます。
テラスの地面に残る「騎士の足跡」と呼ばれるくぼみにも注目。これには、選帝侯の妃が浮気相手の騎士と密会していた際に、見つかりそうになった騎士が妃の寝室から飛び降りた際に付いたものだという逸話が残っています。
世界最大のワイン樽(ハイデルベルク城内)
ハイデルベルク城には、城内にもいくつかの見どころがあります。そのひとつが、木製のものとしては世界最大といわれるワイン樽。直径7メートル、高さ8.5メートル、容量22万リットル超という巨大なもので、実際に目にするとその大きさに圧倒されること間違いなし!
現在のものは1751年に作られた4代目で、「カール・テオドール樽」という名前がついています。往時は、1日に2000リットルほどのワインがポンプで宴会場まで汲み上げられていたのだとか。大樽の上を通る形で階段が設けられており、上から樽を見下ろすこともできますよ。
ワインの大樽と対面したら、その近くの壁にある一人の男性の像にも注目。この人物は、「ペルケオ」という名の選帝侯に使えた道化師で、一日に15本とも18本ともいわれるほど、大量のワインを飲む酒豪でした。
実はこのペルケオ、お医者さんからお酒を控えるよういわれ、試しにワインのかわりに水を飲んだところ、亡くなってしまったという逸話の持ち主。彼にとってワインは、まさに「命の水」だったのですね。
ドイツ薬事博物館(ハイデルベルク城内)
オットーハインリヒ館の中には、ドイツの医療や薬事の歴史をテーマにした「薬事博物館」もあり、ハイデルベルク城のチケットがあれば追加料金なしで入場することができます。
19世紀の修道院にあった調剤室の再現や、実際に使用されていた薬草、薬事に関する古文書など、ドイツにおける中世から近世までの薬の歴史が展示されています。なかには「ハリー・ポッター」の世界を彷彿とさせるような展示もあり、言葉がわからなくても興味津々。
売店では、石鹸やレトロなイラストが描かれたオリジナル缶など、ここだけで購入できるお土産もチェックしてみてください。
ハイデルベルク城への行き方
高台に建つハイデルベルク城へのアクセスは、コーンマルクトの南側から出ているケーブルカーの利用が便利。ハイデルベルク城の入場料に往復のケーブルカー料金が含まれているため、これを利用しない手はありません。
ケーブルカーに乗ったら、ひと駅目の「シュロス(Schloss)」で降りれば、城の入口はすぐそこです。歩きながらゆっくりとハイデルベルク旧市街の風景を堪能したいなら、行きはケーブルカーを使い、帰りは歩いてもいいでしょう。
カール・テオドール橋(アルテ橋)
ハイデルベルク城と並ぶハイデルベルクのシンボルが、ネッカー川に架かるカール・テオドール橋。選帝侯カール・テオドールの命により1788年に造られたためにこの名がつきましたが、単に「アルテ橋(古い橋)」とも呼ばれます。
2つの白い塔がある門は、かつて旧市街を守っていた城壁の一部。門では管理人が通行税を徴収していたほか、敵が攻めてきた際には落とし格子を下げて侵入を阻止していたといいます。
門のすぐそばにある一風変わった姿をした像は、サルの銅像。現在の像は1979年に設置されたものですが、その歴史は15世紀にさかのぼります。
当時は、マインツのほうにお尻を向けたサルの像があり、それによってハイデルベルクの人々は、「自分たちはマインツ司教ではなく、プファルツ選帝侯に属している」という意思表示をしていたといいます。
このサルは左手に鏡を持っていて、「サルを笑うことは自分自身を笑うこと」という戒めが込められているとか。「鏡に触ると金運がアップする」というジンクスもあるので、嘘かまことか、一度お試しあれ。
ハイデルベルク大学の「学生牢」
大学の町・ハイデルベルクらしい観光スポットが、「学生牢」。その名の通り、かつて罪を犯した学生を懲らしめるための牢屋として使われていた部屋です。
かつて、ドイツの大学の多くは裁判権を持っていて、警察ではなく大学が罪を犯した学生を裁いていました。ドイツ各地にあった学生牢のなかでも、特に有名なのがハイデルベルク大学の学生牢で、1712年から1914年まで、およそ200年間にわたり使用されていたのです。
とはいえ、この学生牢に投獄されていたのは、酔って喧嘩をしたり、物を壊したりといった「微罪」を犯した学生たちで、決して凶悪な罪を犯していたわけではないのでご安心を。
投獄期間は、罪の内容に応じて2日~4週間程度。当時の学生たちにとって、学生牢に入るのは「男の勲章」、つまりは一種の名誉で、「卒業までに一度は学生牢に入りたい」と考えていた学生も多かったといいます。
念願叶って(?)ここで一時を過ごすことになった学生は、それぞれの部屋を「サンスーシ」や「グランドホテル」などと名付け、壁に自らの名前や投獄期間、罪状などを記し、自分がここにいた証を残しました。
壁や天井一面が落書きで覆われた学生牢内部は、一瞬にして別世界にワープしたかのような独特の雰囲気。陰湿さや暗さはなく、ここに入った学生たちがそれぞれに青春時代を謳歌していた様子が伝わってきます。
かつてはドイツ各地にあった学生牢ですが、ハイデルベルク大学の学生牢のように現存しているものは実に貴重。歴史ある大学町ならではの文化が感じられる学生牢は必見です。
雰囲気満点の路地裏
パステルカラーの建物が並ぶハイデルベルク旧市街には、雰囲気のある路地がいっぱい。
旧市街のメインストリートは、旧市街の中央を東西に貫く「ハウプト通り」。たくさんのレストランやカフェ、ショップが並ぶメインストリートから一歩入ると、ひっそりとした石畳の路地の風景が広がり、雰囲気が一変します。
路地裏にも可愛いカフェやショップがあるので、気の向くままに路地裏散策を楽しんで。
絶景スポット「哲学者の道」
ハイデルベルクにやってきたら絶対に見逃してはいけないのが、「哲学者の道」からの旧市街の風景です。
「哲学者の道」とは、旧市街から見てネッカー川の対岸の斜面に広がる散歩道のこと。ゲーテをはじめ、多くの詩人や哲学者たちがここで思索にふけったといわれています。
哲学者の道に向かうなら、ビスマルク広場の北にあるテオドール・ホイス橋方面から入り、カール・テオドール橋を通って旧市街方面に戻るのがおすすめ。カール・テオドール橋から入ると、かなりの急坂をのぼる必要がありますが、このルートなら比較的坂も緩やかです。
ハイデルベルク城のテラスからの風景も十分美しいですが、城と旧市街、周囲の緑とネッカー川が一枚の写真に納まる哲学者の道からの景色は、筆舌に尽くしがたい絶景。きっといつまでも眺めていたくなることでしょう。
ハイデルベルク名物「学生のキス」
学生の街ハイデルベルクの定番土産といえば、「学生のキス」。「恋愛成就のチョコレート」ともいわれていて、ハイデルベルク最古のカフェ「カフェ・クネーゼル(Café Knösel)」併設のショップで売られています。
1863年創業のカフェ・クネーゼルは、オープンするとたちまち花嫁学校に通う女子学生たちのあいだで人気を呼び、すると女子学生を目当てに、ハイデルベルク大学に通う男子学生もこの店に通うようになりました。
オーナーのクネーゼル氏が「学生のキス」と名付けたチョコレートを売り出したところ、若い男女が想いを寄せる相手に、このチョコレートを贈り合うようになったのです。
なんとも甘酸っぱいエピソード!こぢんまりとした店内には所狭しとレトロなパッケージのチョコレートが並び、どこか懐かしい気持ちにさせてくれます。
「Heidelberger Studentenkuss」
住所: Haspelgasse 16, Heidelberg
公式サイト: http://www.studentenkuss.com/
おわりに
ドイツ最古の大学町で、ドイツ三大名城のひとつを擁するハイデルベルクは、旅人をとりこにするノスタルジックな風景と、ここだけの逸話がいっぱい。
世界遺産の大聖堂で有名なシュパイヤーなど、近郊の観光地へのアクセスの拠点としても便利なので、2~3日ゆっくりと滞在して、ディープな魅力を見つけてはいかがでしょうか。