中世そのままの風景が残る塩の町、北ドイツのリューネブルクが美しい

「北ドイツで最も美しい」といわれる町のひとつが、ハンブルク近郊に位置するリューネブルク(Lüneburg)。

古くから製塩業で栄え、莫大な富を得たこの町には 絵本のように美しい、中世そのままのメルヘンチックな風景が残っています。

ハンブルクから日帰りで行ける穴場の町、リューネブルクに出かけましょう。

塩の町、リューネブルク

北ドイツ、ニーダーザクセン州の主要都市のひとつ、リューネブルクは、エルベ川の支流であるイルメナウ川沿いに位置する町。日本ではあまり知られていませんが、1000年以上の歴史を誇るリューネブルクは、北ドイツで最も美しい町のひとつと称えられています

人口7万4千人。日本でいえば小都市に分類される地方都市ながら、この町には訪れた人が驚くほどに壮麗な建造物が数多く残っています。

その立役者が「塩」。

リューネブルクは、「バルト海の女王」と呼ばれたリューベックへと続く「塩街道」の起点となる町で、古くから製塩業で栄えました。現代では塩が莫大な富をもたらすことが想像しにくいものですが、中世の時代、塩は「白い金」と呼ばれたほどの貴重品で、高値で取引されていたのです。

かつてのリューネブルクは、ベルゲン(ノルウェー)やヴィスビー(スウェーデン)、 リューベック と並び、ハンザ同盟において最も重要かつ裕福な都市のひとつだったほど。現在も、美しく誇り高い町並みに、その栄華の面影を見ることができます。

リューネブルクへのアクセス

リューネブルクは、ハンブルクの南東約50キロのところに位置し、ハンブルクから日帰り旅行が可能です。

ハンブルク中央駅からリューネブルク駅へは、鉄道で35~50分(便により異なる)。駅から旧市街までは、徒歩約10分です。

ハンブルクから気軽に出かけられるアクセスの良さを誇る一方で、有名観光地に比べると、観光客がずっと少なくのんびりとした雰囲気が漂うリューネブルクは、北ドイツのなかでも穴場的な観光地といえるでしょう。

戦禍を免れた美しい旧市街

ドイツの主要都市の多くが第二次世界大戦で甚大な被害を受けたなか、リューネブルクは戦禍を免れたため、中世そのままの美しい風景が残されています

旧市街に足を踏み入れたとたん、絵本の世界にやってきたかのような気分に。

通りには、中世からルネッサンス期にかけてのゴシック様式やバロック様式の歴史的建造物が並び、ハンザ都市らしい貫録が薫り立ちます。

リューネブルクの旧市街が特別なのは、北ドイツらしくレンガ造りの建物が多い一方で、メルヘンチックな木組みの建物もたくさんあること。

ドイツにレンガの町並みや木組みの町並みは数あれど、リューネブルクほど高いレベルでレンガと木組みが美しい融合を遂げている町は珍しく、それこそがリューネブルクの景観を忘れがたいものにしているのです

壮麗な館が並ぶアム・ザンデ広場周辺

リューネブルクで最も美しい広場が、アム・ザンデ広場。さまざまなイベントも開催される賑やかな広場で、古くからリューネブルクの町の中心でした。

中世の時代には塩の取引が行われていた広場を、立派なファサードをもつかつてのハンザ商人の館が取り囲んでいます。その美しさはまさに絵のようですが、これはまだまだ序の口。

アム・ザンデ広場から続く、ハイリゲンガイスト通りでは、道の両側にルネッサンスをはじめとする壮麗な家々が建ち並び、見る者を圧倒します。

リューネブルクでは特別に何かをしなくても、町並みを眺めながら歩くことが立派な「アトラクション」になるのです

聖ヨハニス教会

アム・ザンデ広場に面して建つリューネブルクを代表する教会が、聖ヨハニス教会 。9世紀に洗礼教会として建てられたのがはじまりで、現在の建物は12~14世紀にかけてゴシック様式で建てられました。

108メートルの高さをもつ尖塔は町のシンボルで、内部では1553年に製作されたバロック様式のオルガンや、1485年に造られた木彫りの大祭壇などが見どころ。

バロックの偉大な音楽家、バッハの叔父ゲオルク・ベームはこの教会の音楽監督を務め、若き日のバッハにオルガンや作曲の手ほどきをしたといいます

レンガ造りの給水塔

リューネブルクの町のもうひとつのランドマークが、聖ヨハニス教会の南側に立つ給水塔

マンハイムの給水塔やヴィスマールの給水塔など、ドイツには有名な美しい給水塔がいくつかありますが、レンガ造りで下部は四角、上部は円形をしたリューネブルクの給水塔も、特徴的なもののひとつです。

意外にも建造は新しく、1907年。エレベーターで上れる塔の展望台からは、古色蒼然としたリューネブルクのレンガ色の町並みを一望することができます

また、塔内部には環境問題や水資源について啓発する展示があり、階段で下りながらそれらの展示を見ることができます。

とはいえ、日本人にとってより興味深いのは、リューネブルクと姉妹都市関係にある徳島県鳴門市に関する展示でしょう。ともに製塩の町として栄え、観光資源にも恵まれ、人口規模も近しいという共通点から、両者は1974年に姉妹都市の提携を結ぶにいたりました

ここではリューネブルクと鳴門の交流の歩みや、鳴門の観光名所、名産品などが紹介されています。鳴門の名産品展示コーナーでは、なんとカットわかめも。ドイツの観光スポットで鳴門のカットわかめに出会えるとは・・・意外な発見にほくそ笑んでしまうかもしれません。

メルヘンチックなイルメナウ川沿い

リューネブルクでひときわメルヘンチックな風景が見られるのが、イルメナウ川沿い。かつては港だった一帯で、川に面して個性的なファサードをもつ豪華な家々が並びます

絵のような光景が広がる絶好のロケーションだけに、このあたりにはカフェやレストランが多く、気候がよければテラス席で食事やお茶を楽しむのもいいでしょう。

この地区でひときわ目を引く存在が、木製のクレーン。現在見られるクレーンは1797年建造と比較的新しいものですが、ここにはじめてクレーンが造られたのは1332年のこと。

塩をはじめとする荷物の積み下ろしに活躍したというこのクレーンは、かつてのリューネブルクの繁栄を下支えする存在でした

華麗なる市庁舎

川沿いを離れて町のメインストリートを歩いていくと、バロック様式のファサードをもつ華麗なる市庁舎に出会います

この市庁舎はリューネブルクの富の象徴で、製塩業で町が繁栄するたびに、市庁舎も増改築が繰り返されました。現在見られるファサードは、18世紀の改築によるものです。

塔に設けられている鐘は、なんとマイセン磁器製。一見しただけではわからない細かな部分も、リューネブルクの往時の財力を物語っているのです。

ドイツ塩博物館

塩で栄えた町らしく、リューネブルク旧市街のはずれには、「ドイツ塩博物館」なるユニークな博物館があります。

1980年まで操業を続けていたリューネブルク最後の製塩所を改装した博物館で、「ドイツ」と冠している通り、リューネブルクに限らず、中世から今日にいたる塩と塩にまつわる文化を網羅しています

巨大な岩塩から、美しく装飾された塩を盛るための器、中世の製塩の様子、近年まで使用されていた製塩機など、「塩」がこれほど多くの物事を生み出すことに驚くはず。

リューネブルクはハンザ圏内で唯一の塩の生産地で、14~15世紀にかけては、樽半分の塩が簡素な平屋と同等の価値をもっていたといいます。それを聞けば、「白い黄金」と呼ばれた塩を武器にリューネブルクが繁栄したのもうなずけるというものですね。

「ドイツ塩博物館(Deutsches Salzmuseum)」
住所:Sülfmeisterstraße 1, 21335 Lüneburg
公式サイト:http://www.salzmuseum.de/

おわりに

日本ではほぼ無名ながら、塩の取引で栄えた当時の絵本のような町並みをそのままに残すリューネブルク。

小さいながらも、気高く美しい町の風景は、きっといつまでも心に残るはずです。