世界遺産・ヴュルツブルクのレジデンツの魅力【ヨーロッパで最も美しい司教館】

44件もの世界遺産を有するドイツは、世界4位の世界遺産大国(2018年現在)。そのラインナップはブナの原生林や中世の教会や街並み、近代の産業遺産など、実に多岐にわたっています。

ドイツに数ある世界遺産のなかでも、おすすめしたいもののひとつが、ヴュルツブルクのレジデンツ。かのナポレオンをして「ヨーロッパで最も美しい司教館」と言わしめた、華麗なる司教の舘に足を踏み入れてみましょう。

ロマンティック街道の起点、ヴュルツブルク

世界遺産のレジデンツがあるのは、「ロマンティック街道の北の起点」として知られるヴュルツブルク。中世の時代に司教座がおかれて以来、司教都市として発展した歴史をもち、現在もフランケン地方の中心都市としてその存在感を確かなものにしています。

マイン河畔に開けたヴュルツブルクの街を、天才音楽家モーツアルトは「美しく、華やかな町」とたたえ、文豪ゲーテはドイツで最も美しい都市のひとつに数えました。

赤茶色をした屋根のあいだから、ところどころ教会の塔が顔をのぞかせる古都の風情漂う街並みは、どこか京都を思い起こさせます。

世界遺産のレジデンツ(司教館)

そんなヴュルツブルクが世界に誇るのが、名産のフランケンワインと世界遺産のレジデンツ(司教館)。ヴュルツブルク市内中心部に位置するレジデンツは、1720~1744年に大司教の居城として建てられた宮殿です

もともと、ヴュルツブルクの大司教は、中心部から川を挟んだ小高い丘の上にあるマリエンベルク要塞に館を構えていました。ところが、18世紀に入って政局が安定してくると、防衛目的の要塞は不要となり、中心部に贅を尽くした新しい宮殿を造ることにしたのです。

こうして生まれたのが、現在ではドイツ・バロックの代表的建築物とされるレジデンツ。基本設計を手がけたのは、当時の若き天才建築家バルタザール・ノイマン。内装も含めてすべてが完成したのは1780年のことで、着工から60年の歳月を要しました。

その美しさと豪華さたるや、当時のヨーロッパでも有数で、ナポレオンが「ヨーロッパで最も美しい司教館」とたたえたほど。1981年には、庭園と広場を含め「ヴュルツブルク司教館、その庭園群と広場」として世界遺産に登録されました

ヴュルツブルクのレジデンツへのアクセス

ヴュルツブルクはバイエルン州のなかでも比較的大きな都市であるため、交通アクセスは便利。ICEでフランクフルトから約1時間、ミュンヘンから約2時間。フランクフルトからの日帰り旅行も可能です。

レジデンツは、ヴュルツブルク中央駅から徒歩15分ほど。ヴュルツブルクの主要な観光スポットは、すべて徒歩で周ることができます。

階段の間

レジデンツで最も有名な空間が、館内に入ってすぐ左手にある吹き抜けの「階段の間」。2階まで続く階段の天井いっぱいに、天空に舞う神々と4大陸を人格化した女神のフレスコ画が描かれており、その壮大なスケールに圧倒されます。

イタリアの画家ティエポロによって描かれたこのフレスコ画は、フレスコ一枚画としては世界最大のもの。ティエポロは、「飛ぶ足場」とも呼ばれた簡単な足場を使って、13ヵ月でこの絵を描き上げたといいます。

4大陸(アフリカ、ヨーロッパ、アジア、アメリカ)を表現したとはいっても、現地に行ったことがない画家が描いたもの。アフリカ象がアジアにいるなど、現代の私たちから見ればおかしなところがあるのもご愛嬌です。

絵画と漆喰の立体的な彫像を組み合わせる手法により、人物や動物たちが今にも飛び出してきそうなほどの臨場感。

18メートル×33メートルという巨大な長方形の天井ながら、空間内にそれを下から支える支柱がないことにも注目してください。建設当時、この天井は、「設計ミス」「絶対に崩れる」などといわれていましたが、第二次世界大戦下の爆撃でも階段の間は崩れることがなく、その強度が証明されています。

白の間

階段を上がって正面にある最初の部屋が、「白の間」。色調は抑え目ながら、アントニオ・ボッシによって制作された、レースのように可憐なる漆喰装飾には、見れば見るほど感動させられます

かつてはこの先の皇帝の間への控室として使われ、18世紀にはオペラなども上演されていたとか。この先に続く空間への期待が否応なしに高まる、純粋な気持ちをもたらしてくれる部屋です。

皇帝の間

ヴュルツブルクのレジデンツのなかでも、特に豪華な部屋のひとつが「皇帝の間」。無数の金の装飾や豪華な絵画、彫像などが組み合わさったロココ様式の壮麗なる空間で、ため息なしには見られない美しさです

天井には、階段の間と同じく、イタリアの画家ティエポロの手によるヴュルツブルクの中世史をテーマにしたフレスコ画が。階段の間と合わせて、制作のために彼がレジデンツに滞在した期間は3年。それに対し、現在の価値で75万ユーロ(約9600万円)の報酬が支払われたといいます。

この部屋をはじめ、レジデンツは毎年6月に開催される「モーツァルト音楽祭」の舞台。ゴージャスな宮殿で名曲が楽しめる、クラシックファンにはたまらないイベントです。

このほか、ガイドツアーのみで見学できる、「鏡の間」なども見ごたえ抜群。時間に余裕があれば、ぜひガイドツアーに参加しましょう。

英語ガイドツアーは毎日11:00と14:00(4~10月は13:30と16:30も)に開催され、ドイツ語ガイドツアーは4~10月は20分ごと、11~3月は30分ごとにスタートしています。(詳細はこちら

ホーフ教会

入口が別になっているために見過ごされてしまうことが多いのですが、レジデンツには付属のホーフ教会があります。

レジデンツ内部にも負けていない豪華な装飾は必見で、大理石風の柱や黄金色の装飾がたたみかけるように迫ってくる姿には息を呑むほど

ヴュルツブルクにはいくつもの教会がありますが、装飾の豪華さという点ではここが一番ではないでしょうか。設計はレジデンツ同様、バルタザール・ノイマン。「これぞバロック」といわんばかりの、装飾的で動きに富んだ内装は圧巻です。

まずレジデンツを見学した後ホーフ教会を訪れ、最後に庭園を散策するといいでしょう。

ホーフ庭園

1765年~1780年にレジデンツの前に造られたホーフ庭園も、世界遺産の一部。よく手入れされた庭園には噴水や彫像があり、初夏~夏にかけては色鮮やかな花々が咲き乱れます。

レジデンス内部への入場は有料ですが、庭園は無料で開放されているため、地元の人々が散歩やおしゃべり、読書などを楽しむ憩いの場。世界遺産の庭園で何気ない日常の一コマが送れるなんて、なんて羨ましいんでしょう。こんなところにも、ドイツ人の生活の豊かさが垣間見えます。

おわりに

ヴュルツブルクのレジデンツは、希代の建築家バルタザール・ノイマンが中心となって、ドイツのみならずイタリアやフランスから集まった国際的なチームによって生み出された芸術品。

一度訪れてみれば、なぜこの宮殿が「人類共通の宝」である世界遺産に登録され、ドイツ・バロックの代表的建築といわれているのかが、理解できるはずです。

※通常、レジデンツ内部の写真撮影は禁止されていますが、特別に許可を得て撮影しています。

取材協力:ドイツ観光局
Special thanks to the city of Würzburg