進撃の巨人の町、ネルトリンゲンのキュートな「猫職員」に会いに行く

ドイツ・ロマンチック街道沿いの小さな町、ネルトリンゲンは中世の面影を残す美しい町。

およそ1500万年前に隕石が落下してできたリース盆地に形成された町として知られていましたが、近年「進撃の巨人」のモデルではないかと噂になり、日本でもその人気が高まりつつあります。

そんなネルトリンゲンをめぐって、もうひとつ話題になっているのが「猫職員」。ネルトリンゲン市の正式な職員として、とある重要な任務にあたっているのです。

猫職員の勤務先・ゲオルク教会

ネルトリンゲン市の猫職員が勤務しているのが、町の中心部にある聖ゲオルク教会の塔

ゲオルク教会は、1427年に建設が始まったネルトリンゲンを代表する教会で、カトリックの教会として建てられましたが、のちにプロテスタントへと変わりました。建物自体は後期ゴシック様式で建てられていますが、内部装飾のいくつかはバロック様式です。

教会の外壁には隕石落下の影響で生まれた石が用いられ、教会内部の床にはアンモナイトなどの化石が埋まったライムストーンが使われています。

聖ゲオルク教会の観光の目玉は、「ダニエル」の相性をもつ高さ89.9メートルの塔。

塔の上からは、円形をしたネルトリンゲンの町並が一望できるほか、運が良ければ、ネルトリンゲンが誇る市の猫職員に会うことができるのです。

ネルトリンゲンの猫職員・ヴェンデルシュタイン

聖ゲオルク教会の塔に勤務する猫職員が、三毛猫の「ヴェンデルシュタイン」

現在の年齢は10歳程度。まだ子猫のときにこの塔にやってきたヴェンデルシュタインに塔の番人がエサをあげたところ、ここに居つくようになったとか。

この「ヴェンデルシュタイン」という名前、「曲がりくねる石」といったような意味で、普通猫につけるような名前ではありません。では、なぜこの猫職員にそんな名前がついたのか。

「ヴェンデルシュタイン」は、現在の「ダニエル」の愛称が付く前の、昔の塔の呼称だったのです。(塔の階段が石造りのらせん階段であることに由来)

なんとも男性的な響きをもつ名前(実際にドイツ語で「シュタイン」は男性名詞)ですが、ヴェンデルシュタインはメス猫

ドイツでは三毛猫は幸運を呼び込むともいわれ、ヴェンデルシュタインは「ラッキーキャット」としてドイツのメディアにも取り上げられました。塔の内部には、世界各地から寄せられた彼女への「ファンレター」も飾られています。

そんな彼女は、ネルトリンゲン市の正式な職員。市の予算には、エサ代のみならず、通院費などヴェンデルシュタインの健康管理に必要な費用があらかじめ組み込まれているといいます。

凛としたムードを漂わせる猫職員

ヴェンデルシュタインが最も長い時間を過ごすのが、石造りのらせん階段を上りきった先、塔の入場料を支払うカウンターがある階にある塔の番人の部屋

とっても賢そうな猫職員は、「そんじょそこらの猫とは違うのよ」と言わんばかりの凛とした雰囲気を漂わせています。

毛並みも柔らかでとっても美しい。それも塔の職員としての「稼ぎ」がいいからでしょうか。

塔の番人室の入口を入ってすぐのところにある台の上が彼女のお気に入りの場所。猫らしく、毛づくろいをしたり、キャットフードを食べたり、眠ったりしていることもありますが、ここにちょこんと座っている姿がとてもサマになっています。

透明感あふれるその瞳には、なにが映っているのでしょう。

愛くるしい姿を見せてくれる一方で、どこか高貴でミステリアスなムードを漂わせるヴェンデルシュタインは、「ただならぬ猫」の雰囲気を感じさせます。

猫職員のお仕事

© Heidi Källner, Stadt Nördlingen

「猫職員」というからには、ヴェンデルシュタインには仕事があります。ヴェンデルシュタインの正式な任務は、塔の周辺にやってくる鳥を追い払うこと

以前は鳥の糞害に悩まされていたそうですが、ヴェンデルシュタインの活躍により、鳥はほとんどやってこなくなったといいます。

鳥を追い払う業務に加え、猫職員は観光客のおもてなしも行っています。ヴェンデルシュタインは一日に3~5回、気が向いたときに塔を上り下りして観光客を引率する働き者。

その働きに対して、ネルトリンゲン市からは「給与」としてキャットフードが支給されています。

塔の職員といえど、そこはやはり猫。時には気まぐれに塔の外に出ていくこともあり、塔に常駐しているわけではないので、会えたらラッキー。「ラッキーキャット」に会えるかどうか、運試しといきましょう。

中世からの伝統をもつ塔の番人

猫職員・ヴェンデルシュタインの「同僚」が、塔の番人。ゲオルク教会における塔の番人の歴史はおよそ500年前にさかのぼります。

中世の時代、塔の番人の仕事はとても重要な意味を持っていました。敵の襲撃や火事など、町と市民の安全を脅かす事件が起こったら、塔の番人がいち早くそれに気づき、町じゅうに知らせることができたからです。

かつての塔の番人は、塔の上に住み込みで働き、2週間に1回程度しか地上に下りることはなかったといいます。塔の中には、今でも中世の時代に使われていた物資引き上げ用の「エレベーター」が。

現在は、おもに2人の番人が聖ゲオルク教会の塔を守っています。今では、塔の番人の仕事は観光客の対応が中心になっていますが、中世からの伝統を受け継ぐ大切な業務も担っているのです。

毎日22時、22時半、23時、23時半、24時の一日5回、番人が塔の上から”So, G’sell so”と叫ぶのがネルトリンゲンの夜の名物

この奇妙なフレーズは、敵がネルトリンゲンに攻め込もうとしていたところ、豚が町から脱走を図り、それに気づいた持ち主の女性が”So, G’sell so”と叫んで周囲の住民を起こし、結果的に町を侵略から守ったという伝説にちなんでいます。

猫職員と塔の番人は仲良し

猫職員のヴェンデルシュタインと、人間の塔の番人はよきパートナー。ヴェンデルシュタインを見つめる番人の目は、とっても優しくて慈愛に満ちています。

ヴェンデルシュタインも番人によくなついていて、番人の出勤時間になると、ヴェンデルシュタインが塔の下まで迎えに来ることもあるんだとか。

猫と人間、種族を超えた「同僚」としての絆が育まれているのでしょうか。

ネルトリンゲンの名物猫職員と、中世からの伝統をもつ塔の番人。彼らが心に残るおもてなしをしてくれる「ダニエル」に出かけてみませんか。

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協力:ドイツ観光局
Special thanks to the city of Nördlingen